星型正多面体

・星型正多面体
 自己交叉する正多面体4種は,凸多面体を「星型化」することで得られる正多面体なので,星型正多面体と呼ばれる。星型正多面体は,構成面が星型正多角形(ケプラーの多面体)であるか,又は頂点における面の配置が星型正多角形状(ポアンソの多面体)になっている。いずれの場合も星型正多角形は星型正五角形,すなわち正5/2角形である
 正多面体を表すのに用いるシュレーフリ記号{p,q}は,頂点のまわりに正p角形がq個並ぶことを意味するが,ケプラーの多面体ではp=5/2ポアンソの多面体ではq=5/2ということになる。これら四つの自己交叉正多面体についてもう少し詳しく見ていきたい。まずこれらを表にまとめる。

名称 記号 面数F 稜数E 頂点数V オイラー標数χ*1 示性数g*2 形状 二面角*3
小星型十二面体 {5/2,5} 12 30 12 -6 4 約116.5°
大星型十二面体 {5/2,3} 12 30 20 2 0 約63.5°
大十二面体 {5,5/2} 12 30 12 -6 4 約116.5°
大二十面体 {3,5/2} 20 30 12 2 0 約41.8°

ケプラーの多面体
 星型正五角形を,辺と辺を共有するように一つの頂点のまわりに五つ並べていく*4(内角は36°なので可能)と,12枚並べたところでちょうど閉じて自己交叉多面体になる。星型正五角形を並べるときに,隣接面同士で相互に星の突起が相手を貫通してしまうが,気にしなくていい。自己交叉多面体とはそういうものだ。面はすべて星型正五角形,二面角は一定であるから,これは正多面体の条件を満たしている。二面角は正十二面体のそれと等しく,約116.5°である。シュレーフリ記号は{5/2,5}であり,小星型十二面体と呼ばれる。
 また,星型正五角形を,辺と辺を共有するように一つの頂点のまわりに三つ並べていくと,これも12枚並べたところでちょうど閉じて自己交叉する正多面体になる。すなわちシュレーフリ記号{5/2,3}であり,こちらは大星型十二面体と呼ばれる。二面角は約63.5°である。二つのケプラーの多面体は二面角が互いに補角であり,小星型十二面体の五角錐状突起と,大星型十二面体の三角錐状突起を側面で貼り合わせると,その隣の側面が同一面上にくる。

・小星型十二面体
 小星型十二面体は,正十二面体を芯として,各面に五角錐を貼り付けたような格好をしている。しかし,この正十二面体の面や,五角錐の側面は,多面体を構成する面の一部分がそのように見えるだけで,この多面体の面はあくまでも星型正五角形である。写真では,星型正五角形ごとに色分けをしているので,よく見ると各面の様子がわかるはずだ。芯となる正十二面体は,さしづめ星型正五角形の芯に見える逆さの凸正五角形であり,みかけ上のものにすぎない。芯の正十二面体の頂点は,小星型十二面体の頂点ではなく稜の交叉点にすぎない。芯の正十二面体の稜は,小星型十二面体の稜の一部になっている。
 12個の面の辺数の総計は,60であるが,1本の辺を2枚の面が共有するので稜数は30本である。12個の面の頂点数の総計は,60であるが,1個の頂点を5枚の面が共有するので頂点数は12個である。計算すると,オイラーの公式を満たさない。F-E+V=-6で,この多面体は,位相的には穴の四つ空いたトーラスと同じである。つまり,面と稜のつながりを保ったまま大星型十二面体を変形していくと,四人乗りの浮き袋にできる。変形にあたっては,面や稜の交叉は無視する。小星型十二面体のグラフは,12個の五角形が各頂点で5個づつ集まるようなグラフである。これは球面上に描くことはできず,示性数4のトーラス上にしか描けない。

・大星型十二面体
 大星型十二面体は,正二十面体の各面に,尖った三角錐を貼り付けたような形状である。この三角錐の側面は,多面体を構成する面の一部でしかなく,この多面体の面はあくまでも星型正五角形である。これも,写真では星型正五角形ごとに色分けをしている。中心に見える正二十面体は,まったくみかけ上のものにすぎない。この正二十面体の面は,多面体を構成する星型正五角形の一部ですらないから,正二十面体を「芯」と呼ぶこともできない。小星型十二面体の稜の一部が正二十面体の稜になっており,小星型十二面体の稜同士の交叉点が,正二十面体の頂点と同じ配置になっている。
 12個の面の辺数の総計は,60であるが,1本の辺を2枚の面が共有するので稜数は30本である。12個の面の頂点数の総計は,60であるが,1個の頂点を3枚の面が共有するので頂点数は20個である。オイラーの公式を満たす
 大星型十二面体は正十二面体の面を凸正五角形から星型正五角形に置換したものであり,両者は位相的には同一の多面体である。この置換は面や稜のつながりを保って行なうので,構成面の内角が108°から36°に変化するのに応じて,二面角は鋭くなる。

・多面体の星型化
 星型正多面体は,星型多面体の一種である。星型多面体とは,多面体を「星型化」することで得られる多面体だ。「星型化」とは,多面体の面を多面体の外へずっと広げていって,他の面と交叉したところを稜とする方法だ。多くの場合,どの面とどの面の交叉を稜とし,どの稜とどの稜の交叉点を頂点とするかによって,一つの多面体から複数種の星型多面体が得られる。
 星型正多面体は,凸正多面体を星型化することで得られる。ただし,凸正多面体を星型化したものが必ず星型正多面体になるのではなく,正多面体を星型化したもののうち,正多面体の条件を満たさないものも存在する*5。それどころか,多面体の条件を満たさない複合多面体も存在する*6

・小星型十二面体と星型化
 小星型十二面体は,正十二面体の各面を,隣接しない二辺で挟まれる領域に広げて星型正五角形とすれば得られる。正十二面体の各稜を延長して,他の稜と初めて出会ったところを頂点にする,といってもいい。この操作で,面と面の隣接関係は保たれるが,もともと一つの面を囲んでいた五つの面が,一点を共有するようになる。それが新しい頂点になる。正十二面体からできる星型多面体のうち,星型正多角形を面とする多面体なので名前に「星型」をもち,小さい方の多面体なので,「小」が冠されている
 小星型十二面体は,正二十面体から得ることもできる。正二十面体には頂点と同じ数だけ五角錐があるが,この五角錐の底面の正五角形を,すべて星型正五角形に変換すればよい。

・大星型十二面体と星型化
 大星型十二面体は,正十二面体の隣接しない3枚の面を広げていって,囲まれた部分をとればできる。隣接しない3面の組は全部で20あるが,すべての組についてこれをやるのだ。非隣接の3面は,正十二面体の一つの頂点につき一組ある。一つの頂点からは三つの稜が出ているが,それらの稜のすぐ向こうにある3面が対応する組である。これらの3面を広げていくと,対応する頂点の方向に三角錐ができる。この操作で,非隣接の3面が隣接3面に変換され,尖った三角錐を作る。その三角錐は,もとの正十二面体の頂点と対応するので,隣接三角錐が稜を共有するように三角錐に底面をつければ,それらの底面は正十二面体の双対,すなわち正二十面体の面をなすことになる。正十二面体からできる星型多面体のうち,星型正多角形を面とする多面体なので名前に「星型」をもち,大きい方の多面体なので,「大」が冠されている
 大星型十二面体は,正十二面体から次のようにして得ることもできる。正十二面体の各面は,それぞれ5つの面で皿状に囲まれている。その皿の縁はギザギザで,そのギザギザの谷を結ぶと各面よりも大きな正五角形ができる。12枚の面すべてにこの操作をして,正五角形を星型正五角形にすれば,大星型十二面体が得られる。

・ポアンソの多面体
 ポアンソが発見した残り二つの星型正多面体は,ケプラーのものの双対であった。すなわちシュレーフリ記号が{5,5/2}のものと{3,5/2}のものである。面はそれぞれ凸正五角形と正三角形。その面が一つの頂点の周りに「5/2枚」集まってできた多面体であるが,どういうことだろうか。
 そもそも頂点周りに面が5枚集まるということは,一つの面の隣に1/5回転した面が,その隣にまた1/5回転した面が,…と並んでもとの面までつながることである。それなら,面を頂点周りに「5/2枚」集めるには,一つの面の隣に2/5回転した面が,その隣にまた2/5回転した面が,…と並べてもとの面までつなげればよい。一連の面はこの間に頂点の周りを2回転する。2回転目は,1回転目に対して面が1/5回転分ずれた格好で交叉していく。このような頂点を切頂すれば,断面にはまさに正5/2角形が現れる

・大十二面体
 小星型十二面体の双対は,大十二面体という。12枚の凸正五角形からなり,正二十面体の各面をきれいに彫り込んでいったような形をしている。彫った谷底に直線が見えるが,これは多面体の稜ではなく,単なる面と面の交線である。正五角形のどの面にも,他の正五角形が5枚斜めに交叉して,ヒトデのような星型正五角形状の山ができているように見える。
 大十二面体と正二十面体は外形が非常に似ており,面の位置が異なるだけである。すなわち,頂点同士が一致するように両者を重ねると,稜同士も完全に一致する。正二十面体には頂点と同じ12個だけ五角錐があるが,この五角錐の側面の正三角形を除去し,底面の正五角形を面としたものが,大十二面体にほかならない。大十二面体は,小星型十二面体の各面を星型から凸に変換することでも得られる。当然,二面角は小星型十二面体のそれと等しい。
 名前からは分からないが,大十二面体ももちろん星型多面体である。星型化のもとになるのは正十二面体で,この大十二面体の12枚の面すべてで囲まれる小さな領域(芯)がそれである。もとの正十二面体において,一つの面を広げていって,その二つ隣の面(五つある)を広げた面との交線を稜とすれば,大十二面体が得られる。大十二面体では名前に「星型」がつかないが,これは構成面が星型でなく凸正五角形であるためだ。正十二面体自身も,正十二面体の星型と考えられるため,それより大きい星型という意味で「大」を冠している。
 正十二面体の星型は以上の三つですべてである。正十二面体からできる星型多面体は,例外なく星型正多面体になる。

・大二十面体
 大星型十二面体の双対は,大二十面体という。20枚の正三角形からなる。どの面にも,他の正三角形の面が15枚交叉していて,複雑な形状の山に見える。大十二面体の正五角形の面にできるヒトデ状の山を,もっと尖らせたような星型正五角錐が3つ,正三角形の中心からそれぞれ各辺の中点方向へ傾いて突出している。大星型十二面体では,各面(星型正多面体)の中央(芯の部分)から,5つの三角錐がそれぞれ各辺の中点方向へ傾いて突出しているが,それと似ている。
 大二十面体と小星型十二面体は外形が非常に似ており,面の位置が異なるだけである。すなわち,頂点同士が一致するように両者を重ねると,稜同士も完全に一致する。小星型十二面体における正五角錐の側面を,くさび状に削って星型正五角錐にすれば大二十面体が得られる。削ってできた谷底の直線は,多面体の稜ではなく,単なる面と面の交線である。大二十面体は,中心に見える正十二面体の内部でも,面と面が複雑に交わっている。小星型十二面体ではそんなことはなく,自身の稜の一部(芯の正十二面体の稜にあたる部分)でしか面は交叉せず,とてもシンプルな構造になっている。このように複雑な大二十面体だが,凸多面体と同相である。
 大二十面体は正二十面体を星型化してできる星型多面体である。正二十面体の面1枚に注目し,それを広げた平面を,その面と平行な対向面の隣接面(3つある)を広げた3枚の平面で切り取ると正三角形ができる。このような正三角形は20枚あるが,すべての面についてこれをやると,大二十面体を構成する20枚の面が得られる。正二十面体におけるある面と,その対向面の隣接面とは,延長して交叉可能なもののうち,最も離れた面の組合わせである。正二十面体の二面角の補角が大二十面体の二面角になることは,星型化の過程から納得がいくだろう。
 正二十面体からできる星型多面体は,なんと58種類もあるのだが,そのうちのただ一つ,大二十面体だけが正多面体の条件を満たしている。58種の中には,正四面体複数個や正八面体複数個による複合多面体も含まれており,ねじれ型のキラルなものもある。

 以上が星型正多面体の概要である。二次元図形である星型正多角形は無限にあるのに対し,星型正多面体は四つに限られるのが興味深い。星型正多角形は,位相的に凸正多角形と同等であるが,星型正多面体は凸正多面体と同相とは限らない

*1:F-E+Vの値。凸多面体では2となる。示性数gの多面体では2−2gである。

*2:いくつ孔のあいたトーラスと同相であるかを示す数。

*3:自己交叉正多面体の二面角は当然劣角(180°より小)になる。仮にすべての二面角が優角(180°より大)であれば,自己交叉を許しても閉じた図形にならないからだ。

*4:星型正五角形の辺は,星の突起の部分だけでなく,芯の部分にもあることに注意する。

*5:正二十面体の星型の多くは正多面体でない。

*6:正八面体の星型は,互いに相貫する二つの合同な正四面体になる。別名をケプラー八角星という。正二十面体の星型にも正多面体の複合になるものがある。