正複合多面体の凸包と芯
・正則な多面体と複合多面体
すべての面,すべての稜,すべての頂点がそれぞれ区別できない凸多面体は,5種の正多面体である。すなわち,正四面体,立方体,正八面体,正十二面体,正二十面体であり,プラトンの立体とも呼ぶ。
すべての面,すべての稜,すべての頂点がそれぞれ区別できない自己交叉多面体は,4種の星型正多面体である。すなわち,小星型十二面体,大星形十二面体,大十二面体,大二十面体である。前二者をケプラーの多面体,後二者をポアンソの多面体と呼ぶこともあり,総称してケプラー・ポアンソの多面体という。
すべての面,すべての稜,すべての頂点がそれぞれ区別できない複合多面体は,5種の正複合多面体である。これについては前回詳しく見た。
・正複合多面体の芯と星型
5種類の正複合多面体の凸包は,正四面体×5,正四面体×10,立方体×5の3種は正十二面体であり,正四面体×2は立方体,正八面体×5は二十十二面体になる。それでは,これらの正複合多面体の芯,すなわち正複合多面体を構成する正多面体の共通部分は,どんな形だろうか。
芯とは,複合多面体や自己交叉多面体において,すべての面によって囲まれる凸多面体のことである。凸包が,複合多面体や自己交叉多面体を内部に含む最小の凸多面体であるのに対し,芯は,複合多面体や自己交叉多面体の内部に含まれる最大の凸多面体ということである。
この芯となる凸多面体の面をずっと広げていって,他の面と交叉したところを稜とすると,もとの複合多面体,自己交叉多面体が得られる。この操作を「星型化」というのであった。よって正複合多面体は,芯の星型である。すなわち正複合多面体は,星型多面体の一種ということになる。
星型正多面体においては,小星型十二面体,大星形十二面体,大十二面体の芯が正十二面体,大二十面体の芯が正二十面体であった。正複合多面体の場合はどうだろうか。正四面体からなる正複合多面体から調べていこう。
・正四面体系
まず,正四面体×5の場合を考える。左の点心図を見ればわかるように,正十二面体に内接する5個の正四面体の正三角形の面は,正十二面体の20個の頂点と,1対1対応している。よって,正十二面体の頂点と面を入れ替えた(すなわち双対な)正二十面体が,これら20枚の正三角形で囲まれる多面体になる。すなわち,正四面体5個からなる正複合多面体の芯は正二十面体である。
正四面体を一つづつ増やしていって共通部分を求めた様子も下に掲げておく。
これとまったく同様にして,ケプラーの八角星の芯が,その凸包である立方体の双対,正八面体であることもわかる。
すなわち,立方体に内接する2個の正四面体の正三角形の面は,立方体の8個の頂点と,1対1対応している。よって,立方体の頂点と面を入れ替えた(すなわち双対な)正八面体が,これら8枚の正三角形で囲まれる多面体になる。
正四面体10個からなる正複合多面体の芯も正二十面体である。正四面体が5個でも10個でも芯が変わらないのは,正四面体を5個から10個に増やすときに新たに加える面が,すべて既存の面と同一平面上にあるからだ。このことは,正十二面体の点心図を見るとよくわかる。左図における2つの正三角形は,正四面体10個の正複合多面体において,同一平面上にある2つの面の投影像である。
・立方体,正八面体系
立方体からなる正複合多面体の芯,すなわち5つの立方体の共通部分は,どんな形だろうか。正十二面体の稜心図を見れば,5個の立方体の正方形の面と,正十二面体の30本の稜は,1対1対応している。よって,正十二面体の稜の位置に面があって,30枚の面で囲まれる多面体が芯になることが分かる。もちろんこの多面体は二十面体対称である。
これは,菱形三十面体に他ならない。正十二面体の各面に正五角錐を乗せて,隣接角錐の斜面を面一にすると,正十二面体の稜の位置に面が来て,菱形三十面体になるのだった。すなわち,立方体5個からなる正複合多面体の芯は菱形三十面体である。
立方体を一つづつ増やしていって共通部分を求めた様子も下に掲げておく。
正八面体からなる正複合多面体の芯は正二十面体である。正四面体10個の正複合多面体が,ケプラーの八角星5個の正複合多面体であることを考えると,これは納得がいく。ケプラーの八角星の芯は正八面体であり,正八面体からなる正複合多面体は,「ケプラーの八角星の芯」の正複合多面体ととらえることができるからだ。「ケプラーの八角星の芯」の正複合多面体の芯は,当然ケプラーの八角星の正複合多面体の芯(すなわち正四面体10個の正複合多面体の芯)と一致し,それは正二十面体なのである。
正八面体からなる正複合多面体では,総計40枚の面のうち2枚づつが同一平面上に来る。そのせいで,正八面体ごとに色を変えるとCGがうまく描けないので,芯は単色にしている。実は,5個目の正八面体の面はすべて4個目までの正八面体の面と同一平面上に来るので,正八面体を4個複合させた時点で芯の正二十面体が現れている。
ちなみに,この芯の正二十面体の頂点は,5個の正八面体の稜を黄金分割している。
・芯と凸包と双対関係
正八面体からなる正複合多面体は,立方体からなる正複合多面体の双対である。すなわち,両者は頂点と面を入れ替えた関係にある。芯がどんな多面体になるかは,この双対関係からも導くことができる。
立方体5個の正複合多面体の頂点は,正十二面体の頂点と一致する。この状況で,頂点と面を入れ替えると,正八面体5個の正複合多面体の面中心が,正二十面体の面中心と一致していることがわかる。これはすなわち正八面体からなる正複合多面体の芯が正二十面体であることを意味する。
また,正八面体5個の正複合多面体の頂点は,二十十二面体の頂点と一致する。この状況で,頂点と面を入れ替えると,立方体5個の正複合多面体の面中心が,菱形三十面体の面中心と一致していることがわかる。これはすなわち立方体からなる正複合多面体の芯が菱形三十面体であることを意味する。
つまり,双対な複合多面体同士では,凸包と芯が互いに双対な凸多面体になるのである。正四面体からなる3種の正複合多面体は,自己双対であるから,自分の凸包と自分の芯が互いに双対である。
この関係は,星型正多面体でも同様に成り立つ。小星形十二面体の双対は大十二面体であり,両者の凸包はともに正二十面体,芯はその双対の正十二面体である。大星形十二面体の双対は大二十面体であるが,前者は凸包も芯も正十二面体,後者は凸包も芯も正二十面体である。確かに双対多面体同士で,凸包と芯が互いに双対な多面体になっている。
以上の結果を表にまとめておこう。双対なもの同士を比べると,面数と頂点数が入れ替わっていて,面がもつ頂点数と頂点に集まる面数も入れ替わっているほか,凸包と芯が互いに双対になっている。