立方体の爆縮

・立方体の爆発

 立方体は,各面を底面とする6個の合同な正四角錐に分割することができる。これらの正四角錐は,頭頂点がすべて立方体の中心に集まっている。この状態から,正四角錐をまっすぐ外へ移動させていくと,立方体が6個の破片になって飛んでゆくように見える。いわば立方体の爆発である。
爆発6.gif 直動画はこちら
 立方体は八面体対称である。そして立方体を上のように6の破片に分割した図形も八面体対称である。この対称性は,破片が移動しても損なわれることはないから,爆発の全過程を通じて八面体対称は保たれている。

・空間充填八面体
 6個の正四角錐は,底面が互いに垂直な3つの方向を向いている。正八面体を,断面が正方形になるように二等分した形をしている。これを2つ集めると,正八面体を1つの点心軸方向に潰した形の八面体(双正四角錐)ができる。8つの面はすべて合同な二等辺三角形である。

 この八面体は,これ一種類だけで空間を充填する。平行移動のみでは充填できないが,3つの直交する方向に向けて並べてやればよい。立方体による空間充填において,各立方体を6つの正四角錐に分割し,底面を共有する2つをくっつけて双正四角錐にすれば,この八面体による空間充填が得られる。

 この空間充填から八面体をうまく6個取り出すと,菱形十二面体になっている。もちろん,菱形十二面体は平行移動によって空間を充填する立体である。菱形十二面体の平行移動による空間充填を,さらに細かくしたものが,上の八面体による空間充填と一致する。

・立方体の爆縮
 爆発とは逆に,破片が内側に飛んでいくとすると,どのような図形が得られるだろうか?破片同士は干渉せずに互いにすり抜けるとする。内側に爆発するのでこれを爆縮と呼ぼう。
 初めのうちは,各角錐の頭頂点は,図形の内側に隠れていて表に現れてこない。角錐の底面付近が隣接する角錐底面と重なり合って縁取りのようになり,その縁取りがどんどん太くなっていく。

 あるところで,菱形十二面体の星型が現れる(上右図)。「星型」とは,多面体の面を多面体の外へずっと広げていって,他の面と交叉したところを稜とした多面体である*1。これは先ほどの空間充填八面体3つの複合多面体と見ることもでき,3つの八面体の共通部分が芯の菱形十二面体になっている。

 さらに移動が進むと,角錐の底面(正三角形)が内側,側面(直角二等辺三角形)が外側に来て,内部にまるっきり立方体の空洞ができる。この状況がしばらく続いて,角錐相互の重なりが解消すると,角錐底面が立方体の面の位置に来る。これは菱形十二面体そのものである。菱形十二面体は立方八面体の双対であり,実は爆縮の過程を通して一貫して見えている。中央の一点から始まって,爆縮が進むにつれてどんどん大きくなる。
 以上の過程を動画にしてみた→爆縮6.gif 直
 動画をじっくり見ていると,内部の菱形十二面体がだんだん大きくなっていく様子がわかるはずだ。
 爆縮の場合も爆発の場合と同様に,全過程を通じて図形は八面体対称である。

・立方体のひねり爆縮
 この爆縮にひねりを加えてみよう。角錐を少しづつ回転させながら飛ばすのだ。ライフルの弾丸のように。このひねり爆縮の間,図形は八面体対称であるが,鏡映対称とは限らず,一般にキラルな図形になる。

 回転角度をうまく調節して,最終的に角錐の底面が,立方八面体の正方形の面の位置に来るようにしてみよう。これで立方八面体にツノをつけた形が得られる。爆縮が始まってからずっと失われていた鏡映対称性が,この時点で再び回復している。外観は,正八面体を膨らましたような形だ。正八面体の紙風船があったら,こんな形だろうか。
 動画はこちら→ひねり爆縮6.gif 直

*1:多くの場合,どの面とどの面の交叉を稜とし,どの稜とどの稜の交叉点を頂点とするかによって,一つの多面体から複数種の星型多面体が得られる。菱形十二面体の場合は自身を含めて5種の星型がある。