正十二面体の爆縮

・正十二面体の爆発
 正十二面体は,各面を底面とする12個の合同な正五角錐に分割することができる。これらの正五角錐は,頭頂点がすべて正十二面体の中心に集まっている。この状態から,正五角錐をまっすぐ外へ移動させていくと,正十二面体が12個の破片になって飛んでゆくように見える。いわば正十二面体の爆発である。
爆発12.gif 直動画はこちら
 正十二面体は二十面体対称である。そして正十二面体を上のように12の破片に分割した図形も二十面体対称である。この対称性は,破片が移動しても損なわれることはないから,爆発の全過程を通じて二十面体対称は保たれている。

・正十二面体の爆縮
 この逆に,破片が内側に飛んでいくとすると,どのような図形が得られるだろうか?破片同士は干渉せずに互いにすり抜けるとする。内側に爆発するのでこれを爆縮と呼ぼう。

 初めのうちは,各角錐の頭頂点は,図形の内側に隠れていて表に現れてこない。角錐の底面付近が隣接する角錐底面と重なり合って縁取りのようになり,その縁取りがどんどん太くなっていく。あるところで,半正多面体*1の一つ,斜方二十十二面体*2によく似た恰好が現れる。

 角錐の重心が一致するくらいまで移動が進むと,図形の外形は最も小さくなる。
 その後はどんどん大きくなって,今度は角錐底面が図形の内側に隠れる。前回記事のコメントでoodzunadairaさんに御指摘いただいた,央菱形三十面体に似た図形も現れてくる。



 さらに移動が進むと,角錐の底面同士の間に正三角形の隙間が現れて,角錐底面が二十十二面体の正五角形の面の位置に来る。このとき,二十十二面体にツノをつけた形になっている。二十十二面体は,正十二面体を稜の中点まで切頂した形である。正五角形の面の位置は正十二面体と共通だが,角度は36°ずれている。正十二面体では,対向する平行な面がちょうど36°回転した関係にある(右の面心図参照)ので,正十二面体の爆縮で二十十二面体ができるのだ。
 以上の過程を動画にしてみた→爆縮12.gif 直 爆縮の場合も爆発の場合と同様に,全過程を通じて図形は二十面体対称である。

・正十二面体のひねり爆縮
 この爆縮にひねりを加えてみよう。角錐を少しづつ回転させながら飛ばすのだ。ライフルの弾丸のように。このひねり爆縮の間,図形は二十面体対称であるが,鏡映対称とは限らず,一般にキラルな図形になる。
 回転角度をうまく調節して,角錐が自分の高さの2倍の距離移動したときに36°回っているようにしてみる。このとき角錐の底面は,もとの正十二面体の面と一致しているので,これは正十二面体にツノをつけた形になっている。爆縮が始まってからずっと失われていた鏡映対称性が,この時点で再び回復している。

 動画はこちら→ひねり爆縮12.gif 直
 ちょっと見たところ,この図形は小星形十二面体と一致するようにも思える。小星形十二面体は,正5/2角形(星型正五角形)12枚からなる自己交叉タイプの正多面体だ。星型正多面体についてはこちら。右の図では同じ面を同じ色で塗ってある。ツノに隠れて見えない部分にも面がある。小星形十二面体と一致するなら,角錐の底面と,隣接する角錐の側面は面一のはずだが,どうだろうか?
 答えは否である。なぜなら,正十二面体の二面角は約116.6°で,120°ではないからだ。正十二面体の二面角が120°なら,角錐の底面と側面の間の二面角は60°となるから,120°+60°=180°で,角錐の底面と隣接角錐の側面が面一になる。実際にはこの角度は180°でなく,約116.6°×3/2=約175.0°になるので約5°足りない。そういえば,どことなくふっくらしている。小星形十二面体に比べて,ツノの高さが少し足りないのだ。

 多面体おもちゃのポリドロンには底辺1,等辺√2の二等辺三角形があって,これを60個使って小星形十二面体が作れる(左図)。こうしてできる形も,小星形十二面体にはならなくて,すこしふっくらしている。ぴったり小星形十二面体になるには,二等辺三角形の底辺の長さ1に対して,等辺の長さが\phi\simeq1.618でなくてはならない。\sqrt{2}\simeq1.414とだいぶ違うが,模型をぱっと見た感じではそれほど違和感はない。
 正十二面体の稜長を1として,それぞれのツノの高さを計算してみると,小星形十二面体は約1.376なのに*3対し,ポリドロンでは約1.130で*4,ひねり爆縮では約1.114となる*5。なんと,どちらも高さは2割近く足りなかったわけだ。道理でふっくらしている。

・正二十面体では…
 さて,以上,正十二面体の爆発,爆縮を見てきたが,これを正二十面体にそっくり置き換えて考えてみたらどうなるだろう。何か興味深い多面体が現れるだろうか?次回,検討してみたい。

*1:複数種類の正多角形を面とする多面体のうち,各頂点まわりの面の並び方が同一で,どの頂点も区別のつかない多面体。

*2:正十二面体の稜をすべて切り開いて,切り離された面を正方形でつなぎ,残った穴を正三角形で塞いだ形

*3:側面が鋭角黄金三角形の正五角錐の高さ

*4:側面が底辺1等辺√2の二等辺三角形の正五角錐の高さ

*5:正十二面体の内接球半径