正十二面体と黄金比(その2:稜心図から)

・正十二面体の稜心直投影
 正十二面体の対向する稜の中心をつなぐ直線は,その稜に垂直で,二回対称軸である。すなわち,この軸周りに,360°/2=180°回転させると正十二面体は回転前と完全に一致する。よって,この軸に平行な光線で直投影をおこなうと,その投影図も二回対称性をもつ。正十二面体は全部で30本の稜をもつから,対向稜の組は15組ある。よって,二回対称軸も15本あり,当然ながら光線をどの二回対称軸に平行にしても,同じ稜心図が得られる。

 しかも,15本の二回対称軸は,互いに直交する3本を1組とする5組に分けられる。この5組の3直交軸は,正十二面体の稜の向きとも一致する。正十二面体の1つの面は,垂直でも平行でもない5本の稜に囲まれているが,全30本のどの稜も,この5稜のいづれかに平行又は垂直である。左図では,5組の稜を組ごとに色分けしている。
 具体的には,稜の属する面における,その稜と対向する頂点を端にもち,かつその面上にない稜は,もとの稜と互いに垂直であり,互いに対向する稜は互いに垂直である。言い換えると,稜長1の正十二面体において,稜に沿って測った最短距離が,2である稜同士は垂直であり,5である稜同士は平行である。

 互いに垂直な3枚の直投影を組み合わせて,正面図,平面図,側面図としたものを正投影という。正十二面体では,この3枚の直投影の光線を同時に二回対称軸に平行に配置することができる。つまり,正十二面体の正投影において,正面図,平面図,側面図をいづれも稜心図にすることができる(左図)。


・稜心図の形状

 直投影による正十二面体の稜心図では,中央に1本の線分があり,これはもとの正十二面体の稜と合同である。よってこの稜長を1とすると,稜心図中央の線分の長さも1である。このほかに,輪郭を構成する2本の平行な線分も稜と合同で長さ1になる。これを左図では赤線で示した。正十二面体上でこれらの稜と垂直なもう2本の稜は,稜心図では輪郭の一点に退化している。図における左右の頂点がそれである。
 この輪郭は六角形である。なぜなら,光線に平行なため一点に退化する稜(2本)を含む面(4枚)は,当然光線に平行で,投影図では線分に退化するからである。それが輪郭を構成する斜めの線分になる。よって,正十二面体の稜心図では,面は4枚しか見えない。これらの裏側にもまったく同じ配置の4面があるから,隠線処理の有無によって稜心図は変化しない
 直投影は,平行な線分の長さの比を保つから,稜心図における各五角形において,赤色の辺に平行な水色の対角線は長さが\phiである*1。よって,この4本の対角線は正方形をつくる。あとで見るように,輪郭の六角形は,黄金菱形*2を切頂した平行六辺形*3である。


・稜心図の寸法
 稜心図で見えている4枚の五角形は,どれも長さ1の辺をもつ。この正方形は,一部の頂点を共有しつつ正十二面体に内接する立方体の面心直投影にほかならない。稜長\phiの立方体の各面に屋根をとりつけて,稜長1の正十二面体を得ることができるが,これはそのことに対応する。

 稜心図に出てくる寸法を,もう少し詳しく見ていこう。
 まず,中央の線分を含む五角形は,対角線までの高さが正方形の辺長の半分に等しく,OH=\frac{\phi}{2}。全体の高さはこの(1+\frac{1}{\phi})=\phi*4で,OE=\frac{\phi^2}{2}
 残りのやや小ぶりの五角形は,対角線と頂点の距離がKG=\frac{AB-GF}{2}=\frac{\phi-1}{2}=\frac{1}{2\phi}であるから,全体の高さはこの(1+\phi)=\phi^2倍で,GL=\frac{\phi}{2}。よって,これら2種の五角形の高さの比は黄金比であることがわかる。
 また,輪郭の平行六辺形の高さと幅は等しく,2OL=2OE=\phi^2である。立方体の各面に合同な屋根をつけたのが正十二面体であるから,そうでなくてはならない。屋根の高さはKL=HE=\frac{1}{2}である。
 △EABは,底辺が\phi,高さが\frac{1}{2}二等辺三角形であるから,黄金菱形を長対角線で二等分したものである。したがって,正十二面体の稜心直投影の輪郭は,黄金菱形の鋭角を切頂した平行六辺形であることがわかる。この黄金菱形は,短対角線の長さが\phi^2,長対角線の長さが\phi^3であり,輪郭の平行六辺形は,この鋭角を\frac{1}{\phi^2}だけ切頂したものである。さらに深く,鋭角を\frac{1}{\phi}切頂し,鈍角を\frac{1}{\phi^2}切頂すると,水色の正方形が得られる。

・投影面積と二面角
 輪郭の平行六辺形の面積を求めてみよう。稜心図において,大ぶりな五角形は高さが\frac{\phi^2}{2}で,もとの正五角形の高さ*5\frac{\phi+2}{2\sqrt{3-\phi}}だから,\frac{\phi^2\sqrt{3-\phi}}{\phi+2}倍である。小ぶりな五角形はこの\frac{1}{\phi}倍である。
 よって,4つの五角形の面積の合計は,正十二面体の1つの面の面積の\frac{2\phi^3\sqrt{3-\phi}}{\phi+2}\simeq2.753倍である*6

 前回は,面心直投影から正十二面体の二面角を算出したが,稜心直投影からも二面角を求めることができる。
 稜心図で中央の線分を含む五角形に投影される面が,スクリーンとなす角は,対称性から二面角δの補角の半分である。この五角形の縮小率は,\frac{\phi^2\sqrt{3-\phi}}{\phi+2}であるから,前回と同様にして,
\cos{\frac{\pi-\delta}{2}}=\frac{\phi^2\sqrt{3-\phi}}{\phi+2}
 これを解くと,二面角δはやはり約116.6°となる。

・稜心図と三接球

 稜心直投影の寸法から,内接球,稜接球,外接球の大きさが求められる。
 最も簡単なのは,稜接球の半径であり,r_m=OR=OS=\frac{\phi^2}{2}\simeq1.309となる。
 次に,外接球の半径は,r_o=OP=\sqrt{OS^2+SP^2}=\frac{\sqrt{\phi^4+1}}{2}=\frac{\sqrt{3}\phi}{2}\simeq1.401
 そして,△OQRが黄金菱形を対角線で四等分した直角三角形であることに注意すると,内接球の半径は,
r_i=OQ=\frac{\phi}{\sqrt{\phi^2+1}}OR=\frac{\phi^3}{2\sqrt{\phi+2}}\simeq1.114
 最後に,三接球と稜心直投影の関係を図に示しておこう。

*1:この対角線は,もとの正十二面体を構成する正五角形の,スクリーンに平行な対角線の直投影だから,投影前と等長である。

*2:対角線の長さの比が黄金比\phiである菱形。

*3:対向する辺が平行で等長な六角形。

*4:正十二面体の直投影に現れる五角形において,一本の対角線は,その対角線に関する高さを黄金分割する。

*5:前回の計算結果を用いた。

*6:正十二面体を直投影したときに,その輪郭が囲む面積のうちで,最も小さいのがこの平行六辺形の面積と思われるが,あっているだろうか?