正十二面体と黄金比(その3:点心図から)

・正十二面体の点心直投影
 正十二面体の対向する頂点の中心をつなぐ直線は,三回対称軸である。すなわち,この軸まわりに,360°/3=120°回転させると正十二面体は回転前と完全に一致する。よって,この軸に平行な光線で直投影をおこなうと,その投影図は三回対称性をもつ。正十二面体は全部で20個の頂点をもち,対向頂点の組は10組ある。よって,三回対称軸も10本あり,当然ながら光線をどの三回対称軸に平行にしても,同じ点心図が得られる。

 正十二面体の直投影による点心図では,3つの合同な五角形が中心を囲んでおり,その外側にまた3つの合同な五角形がある。輪郭は正六角形を切頂した準正十二角形である。この準正十二角形の長いほうの辺は,スクリーンと平行な稜が直投影されたものなので,長さが稜長と等しい。正十二面体の稜長を1とすると,この点心図には,長さ\phiの辺をもつ正三角形(水色)と,長さ1の辺と\phiの辺を交互にもつ準正六角形(赤)が隠れている*1

・正十二面体に内接する正四面体

 この準正六角形の頂点を一つおきにつないで得られる正三角形は,正十二面体と頂点を共有する正四面体の面心直投影になっている。正十二面体の頂点を一つおきに選ぶと,(頂点を共有しつつ)内接する立方体が得られたように,頂点を二つおきに選ぶと,内接する正四面体が得られるのだ(右図)。準正六角形の中心を通らない対角線の長さは,余弦定理により,\sqrt{1+\phi^2-2\phi\cos{\frac{2\pi}{3}}}=\sqrt{1+\phi^2+\phi}=\sqrt{2}\phi
 つまり,稜長1の正十二面体に内接する正四面体の稜長\sqrt{2}\phiである。一方,前回稜心図で見たように,内接する立方体の稜長\phiである。正十二面体に内接する立方体の頂点を一つおきにつなぐと内接四面体が得られるから,この関係は当然と言えば当然だ。

・正十二面体の頂点間距離
 今までの結果から,正十二面体の頂点間距離がすべて分かる。それを近い順に並べると,1,\phi,\sqrt{2}\phi,\phi^2,\sqrt{3}\phi(1,1.618,2.288,2.618,2.803)となり,黄金比がきれいに現れる。対向頂点間距離\sqrt{3}\phi内接立方体の対向頂点間距離でもあるのですぐ出るし,その直前の\phi^2は正十二面体の稜接球の直径と一致することから算出できる。

 点心図には,このうち\sqrt{3}\phiを除く頂点間距離が現れている(赤,水色,緑,橙の順)。また,稜心図には,すべての頂点間距離が出現する(赤,水色,緑,橙,紫の順)。面心図には\sqrt{2}\phi\sqrt{3}\phiを除く頂点間距離が現れる(赤,水色,橙の順)。
 下図のように,1つの頂点から隣接頂点へ向かって,正十二面体を次々に切り開くと,その断面に,これらの頂点間距離を辺長とする三角形の系列が得られる。

・点心図の寸法
 ほかの部分の寸法は,次のようになる。

 まず,中央寄りの五角形は,長さ\phiの対角線から図の中心にある頂点までの高さが,辺長\phiの正三角形ABC内接円の半径に等しく,OJ=\frac{\sqrt{3}\phi}{6}\simeq0.467である。ここで,正三角形の内接円半径が高さの1/3であることを用いた。よって,全体の高さはOK=\frac{(1+\phi)\sqrt{3}\phi}{6}=\frac{\phi^3\sqrt{3}}{6}\simeq1.223
 外側の五角形は,もっとつぶれていて,その高さは,中央寄りの五角形の高さOKから,正三角形の外接円の半径OAを引いた値になる。正三角形の外接円半径はその高さの2/3(内接円半径の2倍)であるから,外側五角形の高さは,BM=\frac{\phi^3\sqrt{3}}{6}-\frac{\sqrt{3}\phi}{3}=\frac{\phi\sqrt{3}(\phi^2-2)}{6}=\frac{\sqrt{3}}{6}\simeq0.289である。
 よって,これら二種の五角形の高さの比(=面積比)は,黄金比の三乗\phi^3\simeq4.236であることがわかる。さらに,これらの五角形の高さが,対角線によって黄金分割されることを考えると,
BL:LM:BM:OJ:JK:OK=1:\phi:\phi^2:\phi^3:\phi^4:\phi^5 となって,黄金比がたくさん出てくる。

・輪郭と投影面積
 輪郭の準正十二角形の面積を求めてみよう。点心図において,大きい方の五角形は,高さが\frac{\phi^3\sqrt{3}}{6}で,もとの正五角形の高さが\frac{(\phi+2)}{2\sqrt{3-\phi}}だから,その\frac{\phi^3\sqrt{3(3-\phi)}}{3(\phi+2)}倍である。小さい方はこの\frac{1}{\phi^3}倍である。
 よって,6つの五角形の面積を合計すると,正五角形の面積の\frac{(1+\phi^3)\sqrt{3(3-\phi)}}{\phi+2}=\frac{2\phi^2\sqrt{3(3-\phi)}}{\phi+2}\simeq2.947倍である。この面積は,稜心直投影の輪郭より大きく,面心直投影の輪郭より小さい。直投影の輪郭面積と正五角形の面積の比は,稜心,点心,面心の順に,
\frac{2\phi^3\sqrt{3-\phi}}{\phi+2}\simeq2.753\frac{2\phi^2\sqrt{3(3-\phi)}}{\phi+2}\simeq2.9472\phi\simeq3.236,となる。
 輪郭の準正十二角形の外接円半径は,準正六角形のそれと等しく,\sqrt{(\frac{\phi^3\sqrt{3}}{6})^2+(\frac{1}{2})^2}=\frac{\sqrt{6}\phi}{3}\simeq1.321。これは,稜心図の輪郭(平行六辺形)の外接円半径\frac{\sqrt{3}\phi}{2}\simeq1.401や,面心図の輪郭(正十角形)の外接円半径\frac{\phi}{\sqrt{3-\phi}}\simeq1.376よりも小さい*2

 輪郭の準正十二角形の長さ1の辺を延長すると正六角形が得られる(右図左)が,その辺長は,中央寄りの五角形の高さを高さとする正三角形の辺長と一致する。このことは正六角形に中心を通る対角線を引くとすぐわかる。よって,正六角形の辺長は,\frac{\phi^3\sqrt{3}}{6}\frac{\sqrt{3}}{2}で割って,\frac{\phi^3}{3}\simeq1.412となる*3。この正六角形の各頂点を,辺の長さにして\frac{\frac{\phi^3}{3}-1}{2}=\frac{1}{3\phi}だけ切頂したものが,輪郭の準正十二角形になるから,準正十二角形の1でない辺長は,\frac{1}{\sqrt{3}\phi}\simeq0.206である*4。この辺の中心からの距離は,\frac{\phi^3}{3}-\frac{1}{6\phi}=\frac{2\phi^4-1}{6\phi}=\frac{\phi^2}{2}であり,もしこれを延長すると,先ほどよりもやや大きな,辺長\frac{\phi^2}{\sqrt{3}}\simeq1.512の正六角形が得られる(図右)。

・二面角
 点心図に現れる二種の五角形の寸法からも,正十二面体の二面角\deltaを求めることができる。
 手前の大きな五角形に投影される面がスクリーンとなす角\theta_1と,裏側の小さな五角形に投影される面がスクリーンとなす角\theta_2の和が\deltaになる。上で見たように,点心図において,大きな五角形,小さな五角形は,正五角形を対称軸の方
向に,それぞれ\frac{\phi^3\sqrt{3(3-\phi)}}{3(\phi+2)}倍,\frac{\sqrt{3(3-\phi)}}{3(\phi+2)}倍に縮小したものであるから,
 \cos{\theta_1}=\frac{\phi^3\sqrt{3(3-\phi)}}{3(\phi+2)}
 \cos{\theta_2}=\frac{\sqrt{3(3-\phi)}}{3(\phi+2)}
 であり,これを解くと,\theta_1\simeq37.38°,\theta_2\simeq79.19°となり,二面角\deltaは約116.6°となる。

*1:直投影が平行な線分の長さの比を保つことと,正五角形の辺と対角線の長さの比が\phiであることから,正十二面体の直投影に現れる五角形の,平行な辺と対角線の長さの比も\phiであることがわかる。

*2:稜心図輪郭の外接円は外接球の投影だから,稜長1の正十二面体をどのように直投影しても,半径\frac{\sqrt{3}\phi}{2}\simeq1.401の円の中に収まる。逆に,稜心図輪郭の内接円は内接球の投影だから,稜長1の正十二面体をどのように直投影しても,輪郭には半径\frac{\phi^3}{2\sqrt{\phi+2}}\simeq1.114の円が収まる。実際,点心図の輪郭の内接円半径は,大きめの五角形の高さ\frac{\phi^3\sqrt{3}}{6}\simeq1.223である。

*3:辺長1の正三角形の高さは,\cos{\frac{\pi}{6}}=\frac{\sqrt{3}}{2}である。

*4:切頂によって除かれる三角形は,等辺の長さが\frac{\sqrt{3}}{2}で,底角が30°の二等辺三角形だから,底辺の長さは2\frac{\sqrt{3}}{2}\cos{\frac{\pi}{6}}=\frac{1}{\sqrt{3}\phi}