正多面体の投影図

・投影法
 コンピュータのディスプレイも,紙の上も,縦横二次元の世界である。だから,そこに三次元図形を描くには,どうしても二次元の図形として描かなくてはならない。三次元図形を二次元図形に変換するのだが,このときにもっとも普通に行われる方法が投影法である。
 つまり,三次元空間内に,光源と,三次元図形と,スクリーンとしての平面を,この順で並ぶように配置し,スクリーン上に物体の影ができるようにして,映ったその影を求める二次元図形(投影図)とするのである。多面体をスクリーンに投影する様子を描いた図を掲げる。光源を白丸で示してある。
 このとき,多面体を不透明なものにしてしまうと,投影像は単なる中実の多角形になってしまい,多面体としての構造が皆目わからない*1。よって通常は,投影される多面体として,稜のみからなるフレームモデルを使用する。ただし,そのままでは稜同士の重なり具合が表現できず,立体感がなくなるため,光源から見て裏側に位置する稜の像を,点線や細線で弱々しく描いたり,又はまったく描かない,という隠線処理をする。



・直投影
 投影法には,光源の位置,形,スクリーンと光源との関係などによって,さまざまなものがあり,図学の教科書には網羅的な説明が載っている。中でも特に重要なのが,直投影透視投影である。下に,立方体を直投影した図を示す。

 直投影とは,無限遠にある光源などによって平行光線をつくり,その光線と直交するようにスクリーンを配置して得られる投影である。直投影によると,スクリーンに平行な図形(多角形や線分)の投影像は,もとの図形と形もサイズも等しい合同な図形になる。スクリーンに平行でない線分は,直投影によって長さが変わる(短くなる)が,互いに平行な複数の線分は,直投影によってその長さの比を変えない。つまり,平行で等長な線分は,平行で等長な線分に投影される(このことは上図でも確認できる)。
 直投影において,線分とその像の長さの比は,それがスクリーンとなす角度θのみによって決まる。具体的にはこの比はcosθであり,スクリーンとの距離によらない。よって,直投影では遠近感が得られず,投影図はのっぺりした感じになる。直投影は,すべての光線がスクリーンと直交すればよいので,光源の位置を無限遠とするかわりに,光源をスクリーンに平行な無限平面としてもよい。

・透視投影
 これに対して,透視投影では,実際の見た目に近い,遠近感のある投影図が得られる。透視投影では,光源は点光源であり,スクリーンから有限の距離にある。初めに掲げた正二十面体の投影の様子は透視投影のものであった。立体上の点と,スクリーン上にできるその点の像を結ぶ直線は,一点(光源)で交わる。この関係は,人間が物体を見たり,カメラで物体を撮影する場合とまったく同様である。物体表面から出た光は,次第に収束して一点で交わった後再び拡がって,網膜上,又はフィルム上に像を結ぶ*2

 上図左は立方体の透視投影の様子,右図は得られた投影図である。直投影とは異なり,平行な4本の稜の像が平行になっていないことがわかる。このように,透視投影では,互いに平行な線分が平行な線分に投影されない。互いに平行な線分の像は,延長するとある一点で交わり*3,これを消失点という。線分の長さの比も保たれない。そのため,透視投影図の描き方はなかなか煩雑である。

・正多面体の直投影
 直投影は,平行な線分の長さの比を保ち,スクリーンに平行な線分の長さを不変にするのであった。そのため,直投影図は比較的容易に作図することができる。逆に言うと,直投影では,多面体の寸法の情報を正確に表現することができ,これは幾何学的な考察にはとても都合がよい。以下では,特に正多面体の直投影について述べていく。
 直投影では,光線はスクリーンに垂直であるが,立体をどのような向きで配置するかによって,得られる投影像が異なってくる。正多面体においては,面心直投影,稜心直投影,点心直投影がよく使われる。これらは,正多面体の中心と,面の中心,稜の中点,頂点をそれぞれ結ぶ直線が,光線と平行になるような配置から得られる直投影である。面心直投影では,正多面体の面がスクリーンと平行,稜心直投影では,稜がスクリーンと平行になる。これら三種の直投影では,光線が正多面体の対称軸と平行になっているのがポイントであり,得られる投影図は,その対称軸の対称性と同等の対称性を備えている。

・正四面体
 正四面体の面心直投影は,構成面と合同な正三角形になる。隠線を描くなら,それは正三角形の中心と頂点を結ぶ線分になる。稜心直投影は,正方形に対角線を描き込んだものになる。一方の対角線は隠線である。点心直投影は,正三角形に,中心と頂点を結ぶ線分を加えたものである。面心,稜心,点心の各投影によって,正四面体の三回対称軸,二回対称軸,三回対称軸が中心の一点に投影される。それに応じて,面心図,稜心図,点心図は,それぞれ三回,二回,三回対称性をもっている。隠線を区別しなければ,稜心図は四回対称性を獲得する。

・立方体
 立方体の面心直投影は,正方形である。稜心直投影は,白銀長方形*4に,長辺の中点をつなぐ線分を描き込んだものになる。点心直投影は,正六角形に,中心と頂点を結ぶ線分を書き加えたもので,これらの線分を一つおきに選んだものは隠線である。面心図,稜心図,点心図は,それぞれ四回,二回,三回対称性をもつ。隠線を区別しなければ,点心図は六回対称性を獲得する。

・正八面体
 正八面体の面心直投影は,同心で逆さの正三角形を組み合わせたダビデの星に,六つの頂点をつないだ正六角形を加えたものになる。一方の正三角形の辺は隠線である。稜心直投影は,白銀菱形*5に,短い対角線を加えたものになり,点心直投影は,正方形に対角線を加えたものになる。面心図,稜心図,点心図は,それぞれ三回,二回,四回対称性をもつ。隠線を区別しなければ,面心図は六回対称性を獲得する。正八面体は立方体と双対であり,同一の回転対称性をもつから,一方の面心図と他方の点心図の対称性は等しく,両者の稜心図の対称性は等しい。

・正十二面体,正二十面体
 互いに双対な正十二面体と正二十面体の直投影は,次に掲げるようなものになる。正十二面体の面心図,稜心図,点心図は,それぞれ五回,二回,三回対称性をもつ。隠線を区別しなければ,面心図は十回対称性を獲得し,点心図は六回対称性を獲得する。正二十面体の直投影についての対称性は,面心図と点心図を入れ替えたものである。

*1:図では面を半透明にしている。

*2:実際には,眼やカメラには,水晶体やレンズがあるので,文字通りの直線ではないが,光にとっての直線は光線であり,物体上の点と,網膜上にできるその点の像を結ぶ光線は,一点で交わっている。レンズのないピンホールカメラであれば,物体上の点と,フィルム上にできるその点の像を結ぶ直線は,文句なしに一点で交わる。

*3:互いに平行な線分がスクリーンにも平行な場合は,線分の像も互いに平行であり,消失点はできない。この場合も線分の長さの比は保たれない。

*4:長辺の長さが短辺の長さの√2倍の長方形。√2は白銀比と呼ばれる。

*5:長い対角線の長さが短い対角線の長さの√2倍である菱形。