デルタ多面体とジョンソンの立体
正多角形のみを面とする多面体のうち,各面の区別がつかないものが正多面体,各稜の区別がつかないものが準正多面体,各頂点の区別がつかないものが半正多面体である。
正多面体は,稜や頂点の区別もつかないが,準正多面体,半正多面体とは区別して呼ばれる。一方,準正多面体は,半正多面体の一種として扱われるので,半正多面体には準正多面体も含まれる。これらはいずれも球に内接し,すべての稜の中点に接する稜接球をもつ均整のとれた多面体である。
・プラトンの立体とアルキメデスの立体
重要な凸多面体の系列には,発見者とされる人名を冠して誰々の立体と呼ばれるものがある。正多面体は,プラトンの立体ともいい,5種類ある。
名称 | 記号 | 面数 | 稜数 | 頂点数 | 形状 | 二面角*1 | 外接球半径*2 |
正四面体 | {3,3} | 4 | 6 | 4 | 約70.5° | 約0.612 | |
立方体 | {4,3} | 6 | 12 | 8 | 90° | 約0.866 | |
正八面体 | {3,4} | 8 | 12 | 6 | 約109.5° | 約0.707 | |
正十二面体 | {5,3} | 12 | 30 | 20 | 約116.5° | 約1.40 | |
正二十面体 | {3,5} | 20 | 30 | 12 | 約138.2° | 約0.951 |
半正多面体から角柱と反角柱を除いたものは,アルキメデスの立体ともいい,13種(うち2種が準正多面体)存在する。底面が正方形以外の正多角形の等稜角柱は,アルキメデスの角柱と呼ばれ,底面が正三角形以外の正多角形の等稜反角柱は,アルキメデスの反角柱と呼ばれる。これらはともに無限系列であり,半正多面体であるが,回転対称性は二面体群にすぎない。アルキメデスの立体は,すべて正多面体と同じ回転対称性をもち,2種のねじれ型を除いて正多面体と同じ鏡映対称性ももつ。
正多面体は正多角形の三次元バージョンといえる。正多角形は,各辺の区別がつかず,各頂点の区別もつかない多角形であり*3,辺の長さが等しく内角が一定であることがその必要十分条件になる。正多面体は,各面の区別も,各稜の区別も,各頂点の区別もつかない多面体である*4。正多角形は3以上のいかなる辺の数でも可能であるのに対し,正多面体は5種類に限られるのが,二次元と三次元の顕著な相違である。正多角形は無限系列であることもあって,その条件を緩めてもあまり興味深い図形が得られるわけではない。しかし,正多面体はその条件を緩めることで,準正多面体やアルキメデスの立体などの興味深い系列が得られる。この条件の緩め方を変えたものに,デルタ多面体やジョンソンの立体がある。
・デルタ多面体
正多角形のみを面とする多面体のうち,各面が合同なもの,という条件から,デルタ多面体が得られる。正多面体以外でこの条件を満たすには,面が正三角形であることが必要である。そこで,正三角形のみを面とする多面体を,デルタ多面体という。デルタ多面体であって,凸なものは,全部で8種類ある。この中には,正四面体,正八面体,正二十面体という三つの正多面体も含む。面の数が決まれば凸デルタ多面体は一つに決まり,面の数が4,6,8,10,12,14,16,20のものが存在する。
左の写真は,右下から時計回りにデルタ四,六,八,十面体。
デルタ六面体は,正四面体を一つの面で貼り合わせた形(等稜三角重錐)で,正八面体を一回り細くした感じ。デルタ十面体は,等稜五角重錐である。
右の写真は,右下から時計回りにデルタ十二,十四,十六,二十面体。
デルタ十二面体は,等稜五角重錐の底面の隣接二稜を切り開き,正三角形二つでその穴を塞いだ形。双子の十二面体ともいう。デルタ十四面体は,等稜三角柱の各側面に等稜四角柱を貼り合わせた形。デルタ十六面体は,等稜四角反柱の両底面に,等稜四角錐を貼り合わせた形で,正二十面体を一回り細くした感じだ。
非凸のデルタ多面体は,無数にある。デルタ多面体の任意の面に等稜三角錐を貼ると,面が二つ増えたデルタ多面体になる。よって,面の数が4以上の偶数なら,どんな面数のデルタ多面体も可能である*5。例えば,凸多面体としてのデルタ十八面体は存在しないが,非凸であれば可能である。ただし凸に限らないデルタ多面体では,面数が決まっても形は一つに決まらない。非凸のデルタ多面体には,ドーナツ状のものもあり,面と面が交叉するものもある。
・ジョンソンの立体
ジョンソンの立体とは,正多角形のみを面とする凸多面体のうち,正多面体と半正多面体を除いたものである。正多面体や半正多面体と同様,すべての稜の長さが等しい等稜多面体である。ミラーの立体と,正多面体以外の凸デルタ多面体を含み,全部で92種類ある。1966年にこの92種類を初めてリストアップしたジョンソンにちなんでこう呼ばれる。これ以外に存在しないことは,ジョンソンの発見の3年後にザルガラーがコンピュータを用いて証明した。よって,ジョンソン・ザルガラーの多面体とも呼ばれる。
すべての頂点が同等とはいえない点で,正多面体や半正多面体と異なる。ただし,ミラーの立体(右図)においては,各頂点に集まる面の配置は一定であるので,頂点の区別は,多面体を全体として見ないとつけられない。他の91種においては,頂点に集まる面を比べただけで,頂点が同等でないことがわかる。
対称性は,せいぜい二面体群であり,鏡映対称面をもたないキラルなものもある。回転対称性がなく鏡映対称面が一枚だけの多面体もあって,正多面体だけからなるとはいえ,かなりいびつな形もある。そんな意外性もまたおもしろい。