凸多面体とオイラーの公式

 これまでの記事では,凸多面体に限って考えてきたが,凸多面体が正確には何であるか説明しなかった。そもそも多面体とは何かも定義していない。今回はそのあたりを整理しておきたい。舞台はユークリッド空間である。
 一次元図形として線分があり,二次元図形として多角形,三次元図形としては多面体がある。線分は,直線上の図形であって,二点に挟まれた部分からなる。多角形とは,平面上の図形であって,複数の線分に囲まれた部分からなる。多面体とは,空間内の図形であって,複数の多角形に囲まれた部分からなる。

・多角形と多面体の定義
 多角形は,二次元空間で一つの線分が他の一つの線分と一つの頂点を共有するように順次つながって閉じた図形である。多角形の表面は線分で,これを辺という。よって,円のように曲線を含む平面図形は多角形でない*1。隣接する辺の境界は頂点という。多角形では一つの頂点で必ず二つの辺が隣接していて,分岐はなく端点もない環状の構造をなしている。なお,多角形では辺が連結でなくてはならないダビデの星のように互いに辺が相貫する複合多角形は,辺が非連結なのでふつう多角形に含めない。
 多面体は,三次元空間で一つの多角形が他の一つの多角形と一つの辺を共有するように次々につながって閉じた図形である。多面体において,その表面は多角形で,これを面という。よって,球や円柱のように曲面を含む立体は多面体ではない*2。隣接する面の境界を稜といい,稜が集まる点を頂点という。多面体では一つの稜で必ず二つの面が隣接している。端に位置する面はなく,一つの辺を三つ以上の面が共有することもない。ある面Aの一つの辺が,その長さの一部で面Bと共有され,残りで面Cと共有されるような事態も排除される。なお,多面体では稜と面が,それぞれ連結でなくてはならない。互いに面が相貫する複合多面体や,大きい立方体の中に小さい立方体の空洞があるような,中実でない立体は,面が非連結なのでふつう多面体に含めない。立方体の一つの面の中心に小さい立方体状の凹み(あるいは突起)があるような,面に穴があいた立体も,稜が非連結なのでふつう多面体に含めない。

・多角形と内角
 辺が連結であれば,多角形は辺と辺が交叉してもよい。ただ,普通は辺と辺の交叉しない単純多角形を考える。自己交叉多角形も含むすべての多角形について,辺の数Eと頂点の数Vは等しい。すなわち,V−E=0であり,これはオイラーの公式の二次元版にあたる。
 単純多角形では,構成要素の辺によって,内側と外側が分断されている。通常,多角形は単純多角形を指し,「多角形」という語で,境界としての辺だけでなくその内部の面をも指すことが多い。単純多角形の隣合う辺と辺がなす角のうち,内部側の角を内角という。内角の補角(二直角=πから内角を引いた角)を外角という。
 単純n角形の内角の和は,(n−2)πになる*3。なぜなら,単純多角形では外角をすべて足すと一周するので,外角の和は四直角=2πになる。一方,内角と外角は互いに補角だから,各頂点における内角と外角の和はπである。これを全頂点について足しあわせると,内角の和と外角の和の合計がnπになることがわかる。この合計から外角の和2πを引くと,内角の和(n−2)πが得られる。

・凸多角形
 単純多角形のうち,すべての内角がπ未満のものが,凸多角形である。ユークリッド幾何学において,点の集合であって,その集合のどの二点間をつなぐ線分についても,その上にある点がすべてその集合に含まれるような集合を,凸集合という。凸多角形は,内部の点の集合が凸集合になっている多角形なのでそう呼ばれる。凸多角形の本来の定義は,「内部のどの二点間も,多角形外部を通らずに線でまっすぐつなげる多角形であるが,これと,「すべての内角がπ未満の単純多角形」は同値である。さらに「どの二頂点を結んだ線分も,外部を通らない多角形」「内部の点を通るどんな直線も,辺とただ二点で交わる多角形」も同値な条件である。凸多角形でない単純多角形を,凹多角形と呼ぶ。

・多面体と内角
 面が連結であれば,多面体は面と面が交叉してもよいが,普通は面と面の交叉しない多面体を考える。このような多面体では,構成要素の面によって,内側と外側が分断されており,「多面体」という語で,境界としての面だけでなくその内部の空間をも指していることが多い。自己交叉しない多面体*4の面はすべて単純多角形からなる。一つの面が自己交叉多角形からなるとすると,その面上の辺の交叉点近傍で多面体の面も必ず交叉するからだ。
 自己交叉しない多面体を構成する多角形の内角の和を,すべての面について足し上げると,多面体の頂点をv個として,(2v−4)πになる。多面体の各頂点に集まる多角形の内角の和は4π未満であるが,これを4πから引いた角を,その頂点における不足角という。多面体を展開図にしたときに,各頂点では周囲に面のない隙間ができるが,その角度が不足角である。この不足角をすべての頂点について足し上げると,4πになることがわかっている。そうでなければ,展開図を組み立てていったときに多面体として閉じない。一方,展開図では頂点は内角の和と不足角で囲まれるから,各頂点におけるこれらの和は2πである。これを全頂点について足しあわせると,内角の和と不足角の和の合計が2vπになり,これから不足角の和4πを引くと,(2v−4)πが得られる。

・凸多面体
 凸多面体の定義も凸多角形と同様である。すなわち,「内部のどの二点間も,外部を通らない線でまっすぐつなげる多面体」が凸多面体である。凸多面体は自己交叉がない。「すべての二面角がπ未満の自己交叉がない多面体」「どの二頂点を結んだ線分も,外部を通らない多面体」「内部の点を通るどんな直線も,面とただ二点で交わる多面体」も同値である。凸多面体の面はすべて凸多角形からなる。一つの面が凹多角形からなるとすると,その面上のある二点をつなぐ線分は必ず面外,すなわち多面体の外にはみ出るからだ。

オイラーの公式
 凸多面体においては,面,稜,頂点の数をそれぞれF,E,Vとした場合,F−E+V=2がなりたつ。オイラーの多面体定理である。この定理は,凸多面体の面,稜,頂点のつながりをグラフとしてとらえて平面に射影すると,平面連結グラフになる*5ことから導かれる。
 平面連結グラフとは,平面上で辺が交叉することなくひとつながりになったグラフであり,頂点数V,辺数Eと,辺で囲まれた面数Fの間に,次の関係がある。平面連結グラフの連結を保ちつつ辺を一本減らすとき,面が一枚減るか頂点が一つ減るかのどちらかなので,F−E+Vは保存される。そしてこの手続きで最終的には一辺と二頂点からなるグラフが得られ,F−E+V=0−1+2=1である。多面体グラフを平面に射影するとき,面が一つ失われているので,これを補充してオイラーの公式F−E+V=2を得る。
 凸多面体だけでなく,膨らませて球になるような(球と同相な)多面体なら,F−E+V=2がなりたつ。球と同相な多面体のグラフは,適当な射影によって,平面グラフに写すことができ,しかも多面体の定義からそれは連結だからである。例えば正二十面体の一つの五角錐が内側に凹んだような多面体は,面,稜,頂点の数が正二十面体と同じだから,F−E+V=2がなりたつのは明らかだ。一般に,球と同相な多面体は,面,稜,頂点のつながりを保ったまま凸多面体に変形できる

・公式の一般化
 一方,球と同相でない多面体は,多面体グラフを平面に射影できず,F−E+V=2がなりたたない。例えば,ドーナツのように穴があいた多面体の場合,F−E+Vは2ではなく0になることが分かっている。オイラーの公式は,穴がg個あいた多面体に一般化することができて,F−E+V=2−2gとなる。オイラーの公式を,自己交叉多面体にまで適用可能にする修正や,高次元にまで拡張する別タイプの一般化もあるが,三次元の自己交叉しない多面体については,以上の結果で十分である。
 なお,多面体の定義では排除したが,仮に,内部に空洞があるものや,面に穴や突起があるものも「多面体」と考えるなら,穴がg個と空洞がn個あいた「多面体」で,面に穴や突起がm個あるものでは,F−E+V=2−2g+2n+m がなりたつ。

*1:もっとも平面上のどんな閉曲線も多角形で近似できるから,円も多角形の一種と考えることもできる。つまり,正n角形(n→∞)=円。

*2:もっとも空間内のどんな閉曲面も多面体で近似できるから,球や円柱も多面体の一種と考えることもできる。例えば,正n角柱(n→∞)=円柱。

*3:辺と辺が交叉する自己交叉多角形でも,内角を考えることができるものがある。すべての辺で囲まれている部分(核)があるような自己交叉多角形の場合,隣合う辺がなす角のうち,核の側にあるものを内角と呼ぶことができる。例えば星形正多角形。正五角形の頂点を一つおきにつなぐと,五芒星状の自己交叉多角形が得られる。辺と辺が交叉する部分は頂点と考えないので,これは五角形の一種で,星形正五角形という。中央に,すべての辺で囲まれた逆さの正五角形が見えるが,これが星形正五角形の核である。その隣合う辺がなす鋭角を,内角と呼ぶ。この場合前述の内角和の公式はそのままではなりたたず,修正が必要になる。n本の辺を一筆でなぞる際に,核の周りをm周するとすると,内角和は(n−2m)πとなる。

*4:多角形に倣って「単純多面体」と呼びたくなるが,この語には別の意味(すべての面が三角形の多面体)があるので使わない。

*5:平面連結グラフの中でも平面3連結グラフになる。3連結グラフとは,非連結にするのに三つの辺を取り去る必要のある連結グラフ。