外接球,内接球,稜接球

・半正多面体の対称性
 アルキメデスの立体の大半は,正多面体と同じ対称性をもっている。ねじれ立方体とねじれ十二面体だけは,対称面がないキラルな多面体なので,鏡映対称性をもたないが,そのほかのアルキメデス立体は,正多面体と同じ鏡映対称性をもつ。回転対称性については,ねじれ型も含むすべてのアルキメデス立体が正多面体と同一で,正四面体群,正八面体群,正二十面体群のうちいずれかの対称性をもつ。
 これに対して,アルキメデスの角柱もアルキメデスの反角柱も,回転対称性は二面体群にすぎない。三次元有限回転群の中で,正多面体群は別格の存在である。巡回群は二次元の有限回転群そのもの,二面体群は二次元の回転に鏡映をあわせた有限群だから,角柱や反角柱の対称性は,二次元に還元できる些末なものにすぎない。しかも,角柱,反角柱の回転対称性は,底面が正多角形で,中心軸が底面に垂直なら二面体群であり,側面が正方形や正三角形である必要はない。アルキメデスの角柱,反角柱は,これら一般の正角柱,正反角柱と同様の対称性しかもたない。半正多面体のなかで,アルキメデス立体を特別扱いする理由の一つは,これによる。角柱,反角柱には対称性が少なく,あまりきれいでないのだ。

正四面体群 切頂四面体
正八面体群 切頂立方体,立方八面体,切頂八面体,斜方立方八面体,大斜方立方八面体,ねじれ立方体
正二十面体群 切頂十二面体,二十・十二面体,切頂二十面体,斜方二十・十二面体,大斜方二十・十二面体,ねじれ二十・十二面体
二面体群 アルキメデスの角柱,反角柱

アルキメデス立体と球
 それでは,回転対称性も鏡映対称性も同じなのに,なぜ正多面体のほうがアルキメデスの立体より格上なのだろう。複数種類の面が混じってないからきれい,というのは確かにある。しかし,大斜方二十・十二面体など,百個以上の頂点がすべて同じ立場で区別がつかないのはある意味すごいことだし,ねじれ二十・十二面体などは正二十面体より見た目もずっと球に近い。面の数が多いアルキメデス立体では,各頂点の立体角はすべて等しく,かなり2πに近いから,ボールにすればよく転がる。サッカーボールは切頂二十面体だが,正多面体の場合は正二十面体といえどもボールとしてはあまり使えそうにない。
 球は,いってみれば閉じた正無限面体である。各頂点のまわりには,互いに合同な無限に小さい正無限角形が,無限個集まっており,そのような頂点が無限個ある。シュレーフリ記号をつけるとすれば,{∞,∞}であろう。球面上の点はすべて平等であって,一切区別することはできない。球の中心を通るあらゆる軸は回転対称軸になり,その軸周りにどんな角度で回転しても,元の球と完全に重なって区別がつかなくなる。称性というのは,いわばいろんな操作に対する「区別のつかなさ」のことであるが,球は無限の対称性をもつ。球という,際限なく対称な図形との関係では,アルキメデスの立体も正多面体に決して引けを取らないように思える。

・多面体の三つの接球
 しかし正多面体は,球との関係において他を圧倒する特徴がある。正多面体は,外接球,内接球,稜接球をもち,それらがすべて同心になるのだ。多面体の外接球とは,すべての頂点を通る球である。外接球はその多面体がすっぽり入る最小の球になる。同様に,内接球とは,多面体のすべての面に接する球で,その多面体にすっぽり収まる最大の球である。稜接球とは,多面体のすべての稜に接する球である。
 一般の多面体は,これらの接球をもつとは限らない。しかし,二つ以上の接球をもつ多面体においては,外接球は必ず稜接球や内接球より大きいし,内接球は必ず稜接球より小さい。ただ,これらの接球の中心は一般に一致しないアルキメデスの立体を含む半正多面体は,同心の外接球と稜接球をもつが,内接球はもたない。面の大きさが一定でなく,中心から近い面と遠い面があるためだ。

・多面体の外接球
 外接球をもつ多面体は結構ありふれている。三角錐(斜角錐も含む四面体一般)は,頂点が四つしかないから必ず外接球をもつ。四つの点が同一平面上になければ,必ずそれらをすべて通る球が存在するからである*1多面体が外接球をもつことと,面を構成する多角形がすべて外接円をもち,それらの外接円が一つの球の切口になっていることは同値である。よって,すべての面の外心*2から多面体内部へ垂線を引いたとき,それらの垂線が一点で交わらなくてはならない。
 すべての正多角柱,正多角反柱は,外接球をもつ。一般に,底面が外接円を有する多角形であるような角錐(含斜角錐)や直角柱*3は,高さによらずすべて外接球をもつ。このような角錐には,頂点と底面の外接円を含む球が必ず存在し,それが外接球になる。また,このような直角柱には,両底面の外接円を底面とする外接直円柱が存在する。直円柱の中心から両底面の円周上の点への距離は一定であるため,この直角柱も球に内接する。

・多面体の内接球
 内接球をもつ多面体も少なくない。任意の三角錐(任意の四面体)は内接球をもつ三角錐では,頂点に集まる三つの面が一つの立体角を作っている。この立体角を上に向けて,中にボールを放り込めば重力で安定する。安定するのは三点で支えられるからであり,その三点が球と三面との接点である。このことから分かるように,どんな大きさの球も,これら三つの面に接するように配置できる。この球の中心は,球の径を変えると移動するが,必ず立体角の頂点を通るある直線上に位置している。そして,もう一つの面がこの立体角をどのように切っていようとも,これらの球の中に必ずこの面と接する球がある。
 正多角錐(除斜角錐)や,それを底面で貼り合わせた形の双角錐も内接球をもつ。一般に,底面が内接円をもつ多角形であり,底面の内心*4の真上に頂点がある*5ような角錐や,それを貼り合わせた双角錐は,すべて内接球をもつ
 これを角錐について説明する。この角錐を,底面と平行などんな平面で切っても,その切口は底面と相似なので内接円をもつ。この内接円の中心(切口の内心)は底面の内心に立てた垂線の上にあるから,底面の内接円を底面とし,頂点を共有する直円錐が,この角錐に内接している。この直円錐の内接球*6が,角錐の内接球にもなっている。この直円錐と角錐は,共通の頂点から角錐底面の各稜へ下ろした垂線で接するが,この垂線と,直円錐と内接球が接する円の交点が,角錐と内接球の接点になる。双角錐でも,円錐を双円錐に置き換えれば,同様の議論が成り立つ。

・多面体の稜接球
 稜接球をもつ多面体は比較的少ない。オイラーの公式(V−E+F=2)を見れば分かるように,稜の数は頂点や面の数より常に多い*7から,それらすべてに球が接するという条件はなかなか厳しいのだろう。一面でも内接円を持たない多角形があれば,その多面体には稜接球はない。すべての面が内接円を持つ多角形でも,それらすべての内接円が一つの球の切口であることは稀である。すべての面の内心から多面体内部へ垂線を引いたとき,それらの垂線が一点で交わることが,稜接球が存在するための必要条件である。
 三角錐は,四つの面がすべて内接円をもつが,一般には稜接球をもたない。例えば,すべての面が二等辺三角形である四面体には,稜接球は存在しない。対称性から,稜接球があるとすれば,その中心はこの四面体の中心であるが,短い稜と長い稜では四面体の中心からの距離が明らかに異なる。
 稜接球をもつ簡単な多面体には,正多角錐(除斜角錐)がある。底面による稜接球の切口は,底面の内接円である。また,側面に位置する各稜と稜接球との接点を通る平面は,底面と平行である。この平面で図形を切ると,角錐の切口は,底面と相似な正多角形となり,稜接球の切口は,その外接円となる。

・同心な三接球
 結局,外接球,内接球,稜接球のすべてをもつ多面体は,正多面体のほかには正多角錐くらいしか見あたらない。一般の正多角錐ではこれらの接球はもちろん同心でない
 多面体が外接球と稜接球をもち,それらが同心となる条件は何だろうか。このような多面体は,すべての面が,同心の外接円と内接円をもつ。外接球をもつ多面体は,すべての面が外接円をもつが,これに加えて稜の長さがすべて等しいとき,かつそのときに限って同心の稜接球をもつ。外接球の中心から各稜までの距離がすべて等しくなるからである。外接円をもち,辺がすべて等長な多角形は,正多角形である。だから半正多面体は同心の外接球と稜接球をもつ。他の例としては,正多面体や半正多面体を,複数の稜が正多角形をつくっている平面で切断し,切口をその正多角形で塞いだ形の多面体*8がある。このような多面体の頂点は,もとの正多面体や半正多面体の頂点の一部であり,しかもすべての面は正多角形になっている。
 外接球と内接球をもち,それらが同心となる条件はどうか。外接球をもつ多面体は,各面の外接円がすべて同じ径のとき,またそのときに限り,同心の内接球をもつ。外接球の中心から各面までの距離がすべて等しくなるためだ。四つの面がすべて合同な四面体がその例である。
 それでは稜接球と内接球をもち,それらが同心となる条件は何か。稜接球をもつ多面体は,すべての面が内接円をもつが,これらの内接円がすべて同じ径のとき,またそのときに限って,同心の内接球をもつ。稜接球の中心から各面までの距離がすべて等しくなるからだ。そのような多面体に,アルキメデス立体の双対多面体がある。
 これらのことから,同心の外接球,内接球,稜接球をもつ多面体は正多面体に限られることがわかる。外接球をもち,すべての稜が等長で,各面の外接円が同径な多面体は正多面体しかないからだ。正多面体は,高い対称性をもつだけでなく,外接球,内接球,稜接球の中心が一致する唯一の多面体なのである。

*1:球の自由なパラメータは中心の三次元位置と半径の計四つだから,同一平面上にない任意の四点を通る球は必ずある。

*2:外心とは,外接円の中心のこと。

*3:側面が底面と垂直な角柱。直円柱,直円錐も同様。

*4:内心とは,内接円の中心のこと。

*5:頂点から底面への垂線の足が底面の内心と一致する

*6:一般の直円錐が内接球をもつことは自明である。母線と底面からの距離が等しくなる点が内接球の中心になる。

*7:多面体の頂点,面は,四面体において最も少なくなるから,V≧4,F≧4。よってE≧6。

*8:ジョンソンの立体の一部