準正多面体と半正多面体

・正多面体
 正多面体は,同一の正多角形を面とする多面体のうち,各頂点まわりの面の並び方が同一の多面体である。五種類しかなく*1,このことを指摘した最古の文献がプラトンの著作であるため,別名をプラトンの立体という。正多面体の条件を緩めることで,ほかにもいろいろなきれいな多面体を得ることができる。

・準正多面体
 正多面体に最も近いのが,準正多面体である。準正多面体とは,複数種類の正多角形を面とする多面体のうち,各稜まわりの面の並び方が同一の多面体である*2。稜は二つの面に挟まれるので,実は面の並び方が同一になるためには,面は三種類以上あってはいけない。だから複数種類の正多角形,といっても実は二種類に限られる。また,頂点に集まる面の数は偶数に限られる。奇数だと,稜の両側の面が同じ種類の正多角形になってしまうからだ。
 正多面体は,どの面も区別ができない多面体である。準正多面体では面の区別があるが,稜や頂点の区別がつかない多面体であることは,正多面体と同様である。
 準正多面体は二つしかなく,立方八面体と二十十二面体である。これらが双対正多面体間の切頂推移で得られる中間形態であることは,前回述べた。立方八面体では,どの稜のまわりを見ても,正方形と正三角形が交互に計六つ並んでいる。二十十二面体では,どの稜のまわりを見ても,正五角形と正三角形が交互に計六つ並んでいる。

・半正多面体
 もう少し条件を緩めたのが半正多面体である。半正多面体とは,複数種類の正多角形を面とする多面体のうち,各頂点まわりの面の並び方が同一で,どの頂点も区別のつかない多面体である。したがって当然準正多面体を含む。このうち,対称性の低い一部の多面体を除いたものは,アルキメデスの立体ともいう。前回言及した正多面体の切頂型五種も,アルキメデスの立体である。
 半正多面体の種類は,頂点に集まる面の並び方で決まる。例えば,切頂立方体では,頂点まわりに一つの正三角形と二つの正八角形が並ぶから,各面の辺の数を並べて(3,8,8)と表せる。

アルキメデスの立体
 アルキメデスの立体は,全部で13種類ある。アルキメデスが発見者とされているが,これらを再発見してそれぞれに統一的な名称を与えたのはケプラーである。まず準正多面体及び切頂多面体について表にしてみよう。面数は,辺数の少ない正多角形順に個数を足し合わせる形で書いてある。

名称 頂点配置 面数 稜数 頂点数 形状
立方八面体 (3,4,3,4) 8+6=14 24 12
二十十二面体 (3,5,3,5) 20+12=32 60 30
切頂四面体 (3,6,6) 4+4=8 18 12
切頂立方体 (3,8,8) 8+6=14 36 24
切頂八面体 (4,6,6) 6+8=14 36 24
切頂十二面体 (3,10,10) 20+12=32 90 60
切頂二十面体 (5,6,6) 12+20=34 90 60

 これ以外に次の六種があり,それでアルキメデスの立体はすべてである。

名称 頂点配置 面数 稜数 頂点数 説明 形状
斜方立方八面体 (3,4,4,4) 8+18=26 48 24 立方体の稜をすべて切り開いて,切り離された面を正方形でつなぎ,残った穴を正三角形で塞いだ形
大斜方立方八面体 (4,6,8) 12+8+6=26 72 48 立方八面体を切頂したような形*3 斜方立方八面体とすべての面が平行
斜方二十十二面体 (3,4,5,4) 20+30+12=62 120 60 正十二面体の稜をすべて切り開いて,切り離された面を正方形でつなぎ,残った穴を正三角形で塞いだ形
大斜方二十十二面体 (4,6,10) 30+20+12=62 180 120 二十十二面体を切頂したような形*4 斜方二十十二面体とすべての面が平行
変形立方体 (3,3,3,3,4) 32+6=38 60 24 立方体の稜をすべて切り開き,切り離された面を,正三角形を連ねた帯でつないだ形
変形二十十二面体 (3,3,3,3,5) 80+12=92 150 60 正十二面体の稜をすべて切り開き,切り離された面を,正三角形を連ねた帯でつないだ形 最も球に近い半正多面体

 最後の二種は,鏡像と重ねることができないキラルな多面体である。

アルキメデスの角柱と反角柱
 角柱と反角柱は,すべての面が正多角形であっても,アルキメデスの立体には含めない。これらは正多角形のみからなり,各頂点の区別がつかないから,正多面体でなければ*5半正多面体であるが,以下の理由から除外される。
 側面が正方形の正n角柱は,底面の正多角形と側面の正方形のみによって構成されており,これらが頂点まわりに同じ並び方をしている。すなわち,どの頂点を見ても,正方形,正方形,正n角形の三つの面が集まっている。前出の記号を使えば(4,4,n)となり,nは3又は5以上の自然数ならどんな数でもよいので,無限種類存在する。側面が正三角形の反正n角柱も,これと同様で,すべての頂点まわりに正三角形,正三角形,正三角形,正n角形の四つの面が,この順で並んでいる。記号は(3,3,3,n)であり,nは4以上の自然数で,これも無限系列である。これらの正多角柱,正多角反柱は,アルキメデスの角柱,アルキメデスの反角柱と呼ばれる。対称性が低いのと,無限個あってあまり面白くないのでアルキメデスの立体には含めない

・ミラーの立体
 斜方立方八面体によく似ているが,アルキメデスの立体でも半正多面体でもない立体がある。日本では,発見者の名を冠して「ミラーの立体」と呼ぶことが多い。擬斜方立方八面体ともいう。
 これは,斜方立方八面体を,八本の稜が正八角形をつくっている平面で切り,互いに45度回して再びくっつけた形である。各頂点まわりの面の並び方は同一なので,頂点配置の記号が使えるが,それは斜方立方八面体と同じ(3,4,4,4)となってしまう。ただ,斜方立方八面体をどの向きに切るかによって対称性が一部失われるので,すべての頂点が同じ立場にはなく,半正多面体ではない。

*1:凸多面体の場合。凸多面体とは,内部のどの二点を通る直線も,面と二箇所でしか交わらないような多面体であり,穴や凹み,突起のないふつうの多面体である。本稿は凸多面体に限って記述する。

*2:準正多面体という語は,日本語ではアルキメデスの立体を指す場合も多いが,ここでは英語にならう。

*3:立方八面体を切頂しても,大斜方立方八面体にはならない。正多角形でない面ができてしまう。

*4:二十十二面体を切頂しても,大斜方二十十二面体にはならない。正多角形でない面ができてしまう。

*5:立方体は角柱の一種であり,正八面体は反角柱の一種である。