正多面体の対称性

・正多面体を作る
 長女が折紙好きなので,ときどき一緒にやる。それで,昔自分も折紙で手裏剣や多面体っぽいものを作っていたのを思い出した。娘は動物とか好きでよくせがまれるが,数学好きとしてはもっと幾何学的なものを折りたくなる。妥協して飾り箱など折るが,もっと純粋に幾何学的な折紙がしたい!そうだ,正多面体を折ろう。
 正多面体はきれいな対称性をもっていて,とても美しい。確かに動物や花もきれいだし,少しは対称性もある。折り鶴だって対称面が一つある。しかし,正多面体の対称性は段違いである。川村みゆきの著書を参考にしたら,比較的簡単に作れた。正五角形12個からなる正十二面体はかなり骨が折れそうなのでパス。折紙ではないが,別にのりしろ付展開図からも正多面体を作ってみた。

・正多面体とは
 正多面体とは,合同な正多角形のみを面とし,二つの面が辺を共有し,それらのなす角度(二面角)がすべて等しい多面体である。結果として頂点近傍の錐がすべて合同になる*1。例えば立方体は,合同な正方形を,隣接する面がすべて垂直になるように配置した正多面体であり,面の数が6になるので正六面体である。正方形は一つの頂点につき三つ配置されている。よく知られているように,本式の正多面体は全部で5種類あり,「プラトンの立体」とも呼ばれる。
 正多面体を表す記号にシュレーフリ記号というのがある。これは,正p角形の面が,一つの頂点にq個集まっている場合,pとqを組にして,{p,q}と表す約束である。そうすると,先の立方体(正六面体)は,{4,3}となる。オイラーの多面体定理*2を満たすp,qの組み合わせは,少し計算すると5組あることがわかる。オイラーの公式を満たすことは必要条件であって,実際にこれらの組が多面体として可能かどうかは別問題だが,結論としてはすべて多面体として実現可能である。それらを面,稜*3,頂点の数とともに表にすると次のようになる。

記号 名称 説明 頂点
{3,3} 正四面体 側面も正三角形である正三角錐 4 6 4
{4,3} 正六面体 別名立方体 空間充填形 6 12 8
{3,4} 正八面体 側面が正三角形の合同なピラミッド二つを,底面で貼り合わせた形 飛行石の形 8 12 6
{5,3} 正十二面体 正五角形の周縁に五つの正五角形を隙間なく並べた桜花状の碗に,伏せた同形状の碗を縁が噛み合うように重ねた形 12 30 20
{3,5} 正二十面体 側面が正三角形の正五角反柱*4の両底面に,側面が正三角形の正五角錐を貼った形 20 30 12

 正多面体は次のようなきれいな対称性を持つ。

・回転対称性
 正多面体は回転対称性をもつ。回転対称性とは,図形をある軸(対称軸)に関してある角度回転した図形が,もとの図形と完全に一致するような対称性である。
 正四面体は,一つの頂点と,対向する面の中心をつなぐ軸まわりに回転すると,一周の間に3回,回転前と完全に重なる。これを三回対称軸といい,これが頂点の数(4本)だけある。また,対向する稜の中点を結ぶ軸は,一周の間に2回重なる二回対称軸である。これは稜の組の数(3本)ある。一周の回転は何もしない恒等変換と同じであり,これを単位元として,三回対称軸まわりの120°回転,240°回転,二回対称軸まわりの180°回転,をあわせると,位数12の(12個の元からなる)群をなす。これを正四面体群という。
 同様に,正六面体は,対向する面の中心をつなぐ四回対称軸が2本,対向する頂点をつなぐ三回対称軸が4本,対向する稜の中心をつなぐ二回対称軸が6本あり,これらの周りの回転は,位数24の群をなす。正八面体は,対向する頂点をつなぐ四回対称軸が3本,対向する面の中心をつなぐ三回対称軸が4本,対向する辺の中心をつなぐ二回対称軸が6本あり,これらの周りの回転も位数24の群をなす。この二つの群は,幾何学的にもまったく同じであり,まとめて正八面体群という。
 同様に,正十二面体は,対向する面の中心をつなぐ五回対称軸が6本,対向する頂点をつなぐ三回対称軸が10本,対向する稜の中心をつなぐ二回対称軸が15本あり,これらの周りの回転は,位数60の群をなす。正二十面体は,対向する頂点をつなぐ五回対称軸が6本,対向する面の中心をつなぐ三回対称軸が10本,対向する辺の中心をつなぐ二回対称軸が15本あり,これらの周りの回転も位数60の群をなす。この二つの回転群もまったく同じであり,正二十面体群という。
 正四面体群,正八面体群,正二十面体群の三つをあわせて,正多面体群という。正多面体群は,三次元空間における有限回転群として非常に興味深い特徴をもっている。

・鏡映対称性
 正多面体には鏡映対称性もある。鏡映対称性とは,図形をある面(鏡映面)に関して鏡に映すように反転した図形が,元の図形と完全に一致するような対称性である。鏡映面に関して一方側にある部分は,この鏡映変換で他方側にある部分と完全に一致し,逆もそうなる。
 正四面体の場合,一つの稜を含み,それに対向する稜を二等分する平面が鏡映面となる。稜の数と同じ6枚ある。
 正六面体の場合には,二種類の鏡映面がある。一つは,対向する面の平行な対角線を結んだ平面であり,もう一つは,対向する面と平行で,正六面体を二等分する平面である。前者は,対向面の組数に対角線の数を乗じた3×2=6枚あり,後者は対向面の組数と同じ3枚ある。合計9枚。
 正八面体の場合も鏡映面は二種類だ。4個の頂点を含む平面(3枚)と,対向する2個の頂点を含み,それらを通らない2本の稜を二等分する平面(6枚)の,合計9枚だ。
 正十二面体と正二十面体では,鏡映面はともに次の一種類である。すなわち,対向する2本の稜を含む平面が,鏡映面となっており,稜の組の数と同じ15枚ある。

・鏡映と回転
 一般に,鏡映と回転には次のような関係がある。異なる二つの鏡映変換を続けて行なうと,鏡映面の交線を軸とする回転になり,その回転角は,鏡映面のなす角の二倍となるのだ*5。各正多面体において,二つの鏡映面を順次組み合わせていくと,回転群の元がすべて現れる。鏡映面の組み合わせの数は,正四面体で21,正六面体と正八面体で45,正十二面体と正二十面体で120,一方,正四面体群,正八面体群,正二十面体群の位数はそれぞれ12,24,60だから,もちろん重複はあるが。

*1:二面角同一に代えて頂点への面の集まり方が同一であることを正多面体の定義に入れる場合もあるが,正多角形の次元を一つ上げたものを正多面体ととらえる方が一貫している。正多角形とは,長さの等しい線分を辺とし,二つの辺が頂点を共有し,それらのなす角度がすべて等しい多角形である。

*2:面,稜,頂点の数をそれぞれF,E,Vとしたとき,F−E+V=2が成り立つ,という定理。

*3:多面体の隣接する面が共有している辺のことを「稜」という。

*4:正n角反柱とは,互いに平行な両底面が正n角形で,側面が二等辺三角形の柱体のこと。正n角柱では母線方向に両底面が重なるが,正n角反柱ではダビデの星みたいに両底面がπ/ラジアンずれている。正八面体は,側面が正三角形の正三角反柱ということになる。

*5:異なる鏡映面が交わらなければ,鏡映面の共通の法線方向へ,鏡映面の間隔の二倍の距離動かす並進になる。同じ鏡映変換を続けて行なうと,当然元に戻る(恒等変換と等しい)。