正二十面体の爆縮

・正二十面体の爆発

 正二十面体は,各面を底面とする20個の合同な正三角錐に分割することができる。これらの正三角錐は,頭頂点がすべて正二十面体の中心に集まっている。この状態から,正三角錐をまっすぐ外へ移動させていくと,正二十面体が20個の破片になって飛んでゆくように見える。いわば正二十面体の爆発である。
爆発.gif 直動画はこちら
 正二十面体は二十面体対称である。そして正二十面体を上のように20の破片に分割した図形も二十面体対称である。この対称性は,破片が移動しても損なわれることはないから,爆発の全過程を通じて二十面体対称は保たれている。
 20個の三角錐は,正四面体にとても近い形をしている。実際,この正三角錐の側面(二等辺三角形)の等辺の長さは,正二十面体の外接球半径に等しい。正二十面体の稜長1として外接球半径は約0.951なので,誤差は5%ほど

・正二十面体の爆縮
 この逆に,破片が内側に飛んでいくとすると,どのような図形が得られるだろうか?破片同士は干渉せずに互いにすり抜けるとする。内側に爆発するのでこれを爆縮と呼ぼう。

 初めのうちは,各角錐の頭頂点は,図形の内側に隠れていて表に現れてこない。角錐の底面付近が隣接する角錐底面と重なり合って縁取りのようになり,その縁取りがどんどん太くなっていく。角錐の重心が一致するくらいまで移動が進むと,図形の外形は最も小さくなる。

 その後はどんどん大きくなって,今度は角錐底面が図形の内側に隠れる。あるところで,菱形六十面体によく似た恰好が現れる(左図)。尖り具合がたいぶ足りないが…。菱形六十面体(右図)は,黄金菱形60枚からなる凹多面体で,花形十二面体とも呼ばれている。過去のエントリでもう少し解説している。

 さらに移動が進むと,角錐の底面同士の間に正五角形の隙間が現れて,角錐底面が二十十二面体の正三角形の面の位置に来る。このとき,二十十二面体にツノをつけた形になっている。二十十二面体は,正二十面体を稜の中点まで切頂した形である*1正三角形の面の位置は正十二面体と共通だが,角度は60°ずれている。正二十面体では,対向する平行な面がちょうど60°回転した関係にある(右の面心図参照)ので,正二十面体の爆縮で二十十二面体ができるのだ。
 以上の過程を動画にしてみた→爆縮.gif 直
 爆縮の場合も爆発の場合と同様に,全過程を通じて図形は二十面体対称である。

・正二十面体のひねり爆縮
 この爆縮にひねりを加えてみよう。角錐を少しづつ回転させながら飛ばすのだ。ライフルの弾丸のように。このひねり爆縮の間,図形は二十面体対称であるが,鏡映対称とは限らず,一般にキラルな図形になる。

 回転角度をうまく調節して,角錐が自分の高さの2倍の距離移動したときに60°回っているようにしてみる。このとき角錐の底面は,もとの正二十面体の面と一致しているので,これは正二十面体にツノをつけた形になっている。爆縮が始まってからずっと失われていた鏡映対称性が,この時点で再び回復している。
 正多面体の正三角形の面に,正四面体のツノを取り付けた多面体は,ダビンチの星と呼ばれることがある。正二十面体のひねり爆縮で得られるこの図形は,ツノが正四面体に近いので,ダビンチの星によく似ている。多面体おもちゃのポリドロン正三角形を20*3=60個使ってこのダビンチの星が作れる。
 動画はこちら→ひねり爆縮.gif 直
 ひねり爆縮の過程では,意外な多面体も現れる。複合多面体*2だ。正四面体5個の正複合多面体である。もちろん正三角錐が正四面体と一致しないので,完全な正複合多面体*3にはなっていないのだが,結構オドロキの結果ではないだろうか。20個の正三角錐が4個づつ重なって,それが5つの正四面体に見える。

 正四面体5個の正複合多面体と同様,この図形も鏡映対称性がないキラルな図形である。ひねる方向を反対にすると,もとのものの鏡像が現れる
 正複合多面体については,この記事この記事を参照。

*1:もちろん二十十二面体は,正二十面体を稜の中点まで切頂した形でもある。

*2:互いに交叉する複数の多面体を,その位置関係を含めて一括してとらえた三次元図形。多面体の複合体。

*3:すべての面,すべての稜,すべての頂点がそれぞれ区別できない複合多面体で,5種類ある。