黄金菱形六面体を積み上げる

 よく見るお気に入りのサイトに,hhaseさんの「あそびをせんとや」がある。かたちとパズルに関する話題が豊富で眺めていてとても楽しい。先日,その「あそびをせんとや」で拙ブログを紹介していただいた。有り難うございます。

・黄金菱形多面体間の関係
 前回見たように,黄金菱形多面体は,平行移動によって,六面体→十二面体→二十面体→三十面体と次々に得ることができた*1。六面体は扁平なものから出発しても,尖鋭なものから出発してもよい*2。稜の向きは,六面体では3方向しかないが,平行移動の向きが順次加わることによって,4方向,5方向,6方向と増えていく。逆に,三十面体から始めて,特定の向きの稜を縮めて点にすることによって,二十面体→十二面体→六面体が順次得られる。
 黄金菱形多面体間の興味深い関係は,このほかにもある。尖鋭六面体2つと,扁平六面体2つをうまく積み上げると,第二種菱形十二面体が得られるのだ。この十二面体に,尖鋭六面体と扁平六面体をさらに積み上げてゆくことで,菱形二十面体,菱形三十面体も得られる。

・黄金菱形多面体の二面角
 隙間なく積み上げることを考えるので,黄金菱形多面体の二面角を調べておく。多面体の二面角とは,稜において隣接する2枚の面がなす角で,各稜をそれに垂直な平面で切ったとき,切口に現れる角度のことである。一般に,異なる稜では二面角は異なるが,黄金菱形多面体で現れる角度は,次のようにすべてπ/5の倍数である。

名称 形状 36° 72° 108° 144°
尖鋭菱形六面体   鋭角3の頂点に集まる稜
6本
鋭角1+鈍角2の頂点同士をつなぐ稜
6本
 
扁平菱形六面体 鋭角2+鈍角1の頂点同士をつなぐ稜
6本
    鈍角3の頂点に集まる稜
6本
第二種菱形十二面体   鋭角4の頂点と鋭角1+鈍角2の頂点を結ぶ稜
4本
鋭角1+鈍角2の頂点と鋭角3+鈍角1の頂点を結ぶ稜
8本
鈍角3の頂点に集まる稜
12本
菱形二十面体     鋭角3+鈍角1の頂点同士をつなぐ稜
10本
鈍角3の頂点に集まる稜
30本
菱形三十面体     鈍角3の頂点に集まる稜
30本

 十二面体が,3種類の二面角をもち,最もバラエティに富んでいる。十二面体は,頂点形状も4種類と他を圧倒していた。三十面体は,稜がすべて同等な多面体*3なので,どこでも二面角が一様である。
 黄金菱形の対角線の長さの比は,正五角形の辺と対角線の長さの比である黄金比だ。そのため黄金菱形多面体と正五角形は関係が深く,黄金菱形多面体の二面角は,正五角形に現れる。正五角形の対角線は内角を三等分するが,そこには36°,72°,108°が見えるし,144°は36°の補角である。特に尖鋭六面体の二面角は正五角形の内角・外角と一致し,扁平六面体の二面角は星形正五角形の内角・外角と一致する。

・第二種菱形十二面体をつくる

 扁平六面体(左図)に対し,面が一致するように,任意の向きで尖鋭六面体を積む。すると,重なった面は内部に隠れて,それを取り囲むように新たな二面角が4つできる。それらはすべて異なっていて,それぞれ108°,216°,252°,144°である。このうち252°の二面角に,尖鋭六面体の108°の二面角が挟まると,ちょうど4直角になる。よってそうなるように,2つ目の尖鋭六面体を積むことができる(中図)。このとき,面と面が一致するような積みかたは一通りしかなくて,1本の稜が内部に隠れ,重なった面2組も隠れてまた新たな二面角ができる。尖鋭六面体同士の境目に216°,144°,144°,扁平六面体と新たな尖鋭六面体の境目に216°,144°,144°である。この状態で,216°の二面角が3箇所にあり,これを扁平六面体の144°の二面角でぴったり覆うことができる。すると3本の稜が隠れ,貼り合わせ面3組も隠れて,表面には面が12枚,稜が24本残る(右図)。これは第二種菱形十二面体にほかならない。
 もとの扁平六面体に積み重ねた3つの六面体は,重ねた面から延びる稜がすべて同じ方向を向いている。他の稜はもとの扁平六面体の稜に一致するか,それと平行である。よってこの貼り合わせは,扁平六面体の平行移動で十二面体ができることと全く同じことを意味している。扁平六面体の鈍角頂点を囲む3つの面に貼り合わせた3つの六面体が,それぞれの面を,もとの扁平六面体のどの稜とも異なるある方向に動かした軌跡になっている。扁平六面体を平行移動して十二面体を得ることと,扁平六面体に尖鋭六面体2と扁平六面体1を貼り合わせて十二面体を得ることは,単に表現を変えたにすぎない。
 ここでは扁平六面体から出発する例で説明したが,尖鋭六面体から出発しても,同様にして第二種菱形十二面体が得られる。

・菱形二十面体をつくる

 得られた十二面体(左図)の面のうち,半数の6つの面に,扁平六面体を3つ(中図),尖鋭六面体を3つ,稜の向きが揃うように貼り付けると,二十面体が得られる(右図)。少し分かりにくいかも知れないので,角度を変えた図も示しておく。下図左から,十二面体,それに扁平六面体のみ積んだもの,尖鋭六面体のみ積んだもの,すべてを積んだものである。

・菱形三十面体をつくる
 さらに,二十面体の面のうち,半数の10面に,尖鋭六面体を5つ,扁平六面体を5つ,稜の向きが揃うように貼り付ければ,三十面体が得られる。二十面体から三十面体への積み上げはシンプルで,二十面体の五回対称軸を中心にして,尖鋭六面体が5つ,相接して対称に並び,その外側に扁平六面体が5つ,相接して対称に並ぶ。

 以上のように,尖鋭六面体と扁平六面体をそれぞれ10個づつ使って,菱形三十面体をつくることができる。このとき,計20個の六面体のうちで,同じ方向を向いているものは存在しない。菱形三十面体の稜は6つの方向を向いている。この6方向のうちから,3つを選ぶ組み合わせは63=20通りあるが,それがまさに積み上げた20個の六面体と対応している

・菱形十面体を積む
 扁平六面体と尖鋭六面体を1つづつ貼り合わせたものは,計12枚の面のうち,2枚が貼り合わさって内部に隠れるので十面体である。この非凸な黄金菱形十面体を,2つ組み合わせると十二面体になることが「あそびをせんとや」で紹介されている。この十面体は鏡映対称面がないキラルな多面体であるが,この組み合わせは鏡像同士では不可能で,合同な2つでなければ貼り合わせができない。右手系左手系どちらの十面体からでも十二面体が得られる。できあがりの十二面体の外形は,鏡映対称だ。
 この十面体をさらに積み上げていって,二十面体,三十面体をも得ることができる。十面体2個で十二面体が得られ,3個足すと二十面体,さらに5個足すと三十面体が得られる。ただし,十二面体を二十面体にするときには,鏡像をまぜなくてはならない。3つの十面体のうち,一つは鏡像にしなくてはうまく重ねられない。図では右上の十面体だけが他の鏡映になっている。
 二十面体を三十面体にするときは,鏡像をまぜてはならない。

*1:本稿では黄金菱形多面体のみを扱うので,多面体の名称中の「黄金菱形」は適宜略す。

*2:前回の記事ではこの点誤りがあったので訂正した。

*3:稜がすべて同等な凸多面体は正多面体5種,準正多面体(立方八面体と二十十二面体)とその双対(菱形十二面体と菱形三十面体)ですべてである。