黄金菱形六面体を積み上げる(その2)

 前回のエントリで,扁平と尖鋭,二種類の黄金菱形六面体を積み上げていって,二個づつで第二種菱形十二面体,五個づつで菱形二十面体,十個づつで菱形三十面体がつくれることを述べた。この様子を動画にしてみた。

http://d.hatena.ne.jp/Polyhedron/files/%E9%BB%84%E9%87%91%E8%8F%B1%E5%BD%A2%E7%A9%8D%E3%81%BF%E6%9C%A8.wmv?d=.wmv
 この積み上げかたは一通りには限られないのだが,今回は,本質的に異なる積みかたがいくつあるかを勘定してみたい。積みかたが「本質的に異なる」とは,回転や鏡映の操作をしても積みかた同士を一致させることができないことをいう。
・第二種菱形十二面体の積みかた
 まず,一つの菱形六面体に三つの菱形六面体を積み重ねて菱形十二面体を得るやりかたは,何通りだろう?積み上げながら順に数えていこう。

 扁平から出発しても,尖鋭から出発しても,菱形六面体は面がすべて同等で区別がつかないので,二つ目の六面体を積む場所は本質的には一通りしかない。そして,一つ目の六面体に同じ種類の六面体を積むときの向きは,積み重ね面に対して互いが鏡像になる向きに限られ,一通りしかない。そのあと,残りの二つの六面体の積みかたは,一意に決まる。
 よって,積まれてできた菱形十二面体は,本質的に一通りしかない。あるいは同じことだが,第二種菱形十二面体を四つの黄金菱形六面体に分割するやりかたは,ただ一通りである。

・菱形二十面体の積みかた
 次に,先ほど積み上げた第二種菱形十二面体に,菱形六面体をさらに積み上げて,菱形二十面体を得るやりかたは,何通りだろう?

 まず,第二種菱形十二面体を固定したとき,積み上げの対象となる六つの面の選びかたは,四通りある。ただし,もとの第二種菱形十二面体は,内部の分割状態を含めて考えても鏡映対称面が二枚残っている。第二種菱形十二面体の直交する対称軸三本のうち長軸及び短軸*1を含む面と,短軸に垂直で中心を通る平面とが,この残存対称面である*2が,これらの面に関して,六つの面の選びかた四通りは対称になっている。よって,積み上げの対象となる六つの面の選びかたは,本質的には一通りしかない*3
 ただ,積み上げ対象面に六面体を積むときの六面体の向きが二通り存在する。第二種菱形十二面体の内部構造が長軸に沿って非対称なため,積み上げていく六面体の向きが長軸に対してどちらに傾いているかで区別が生じるからだ。この傾きの方向が決まれば,十二面体に積むべき六つの六面体の積みかたは一意的である。
 よって,積まれてできた菱形二十面体は,本質的に二通りである。すなわち,菱形二十面体を十の黄金菱形六面体に分割するやりかたは,二通りある。

・菱形三十面体の積みかた
 最後に,先の菱形二十面体に,菱形六面体を積み上げて,菱形三十面体を得るやりかたが,何通りあるか数えよう。

 もとの菱形二十面体の内部構造(菱形六面体による分割構造)を考えると,本質的に異なる内部構造のいづれの場合も,鏡映対称面や回転対称軸をもたない。そして,積み上げの対象となる十の面の選びかたは,それぞれ二通りある。その十面を選ぶと,そこに菱形六面体を積み上げて菱形三十面体にするやり方は一通りしかない。
 結局,積まれてできた菱形三十面体は,本質的に四通りである。すなわち,菱形三十面体を二十の黄金菱形六面体に分割するやりかたは,四通りある。

・四通りの共通点
 冒頭の動画を見ていただくと分かるように,この前回紹介した積みかたにおいて,菱形三十面体の表面に露出していない菱形六面体は,扁平が一つ,尖鋭が一つの計二つである。露出しない扁平六面体は,十二面体をつくるときの二つ目の扁平六面体で,露出しない尖鋭六面体は,二十面体をつくるときに十二面体に積み重ねる二つ目の尖鋭六面体である。
 そして興味深いことに,本質的に異なる菱形三十面体の積み上げかたのどれでも,表面に露出しない菱形六面体が,扁平一つ,尖鋭一つの計二つであることは変わらない
 積みかたを区別する際に,鏡像同士は同一視したが,もし鏡像も区別する,すなわち回転によって重ねられない積みかたを区別するとすれば,異なる積みかたは計八通りになる。四通りのそれぞれに対して鏡像があるためである。

*1:対称軸のうち立体を横切る長さが最も長い軸を長軸,短い軸を短軸と呼んでいる。

*2:分割状態を考えると消失する対称面は,長軸に垂直で中心を通る平面。

*3:鏡映対称性のみで考えてよい理由は次のとおりである。もとの第二種菱形十二面体は,内部の分割状態を含めて考えると回転対称軸が一本残っている。第二種菱形十二面体の直交する対称軸三本のうちの長軸で,これは二回対称軸である。ただ,長軸に対する二回回転対称性は,本文で述べた二枚の残存対称面の鏡映対称性を組み合わせたものであるから,回転対称性を別個に考える必要はない。